*【南】venez m'aider
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箱の底に残っていたのは。
あれから南くんと何かあったかといわれると、なにもなかった。なにもなかったように冬は深まり年を越し、機会があればいつものメンバーで飲んだ。
『俺は実習につき欠席。終わったらな。』
その言葉に少し安堵した。あの夜に、私の南くんへの恋心は完全に形になった。ただ、お互いに酔っていたから、なかったことになったのかと思うと胸が痛んだ。
もちろんそれより前から自分の気持ちには気付いていた。彼の一挙手一投足に気持ちが浮き沈みする。そんなの、そういうことじゃん。
「あー…最悪。」
上司に指摘され、私は近くの病院に向かっていた。朝から熱があり、大したことないと思っていたけど昼過ぎからどうにも調子が悪くなった。
「本山、時期も時期だから病院行け。インフルエンザだとかなわん。」
仰る通りです、と早退し、先ほど近所のクリニック覗いたら臨時休診。タイミング悪すぎなんじゃ。急ぎ検索。ヘイ携帯、近くの空いてる病院は?
「インフルエンザは陰性だよ。風邪かな、喉が赤くなってる。熱ちょっと高いし、解熱剤出しておくね。38.5℃超えてどうにも眠れない時に使って。」
インフルエンザじゃないと聞いて胸を撫で下ろす。精算を済ませ、調剤薬局で順番を待つ。
「本山さん… 本山?」
聞き覚えのある声に顔をあげると、驚いた顔をした南くんがいた。あの時と違って白衣は綺麗だ。ネームプレートには、研修中、と書かれている。
「あ…はい。」
「おう、あ、本山 千聡さんデスネ?」
「急に棒読みやめてよ。」
南くんは咳払いを一つして、私に椅子にかけるよう勧め、自分も座った。そして薬の説明を始める。近くに指導役の薬剤師さんが立っていて、実習ってこのことかと納得した。
会計を済ませて薬局を出て少し歩くと、南くんが駆けて来た。
「おい!…まっすぐ帰れよ、寄り道すんな。その、…後で連絡するから。」
「え?あ、うん、ありがとう。南くんも実習おつかれさま。」
「…おう。」
南くんは私から視線を外すと、踵を返し、走って行った。私はその後ろ姿を焼き付けるように見つめていた。
胸が温かくなるのがわかった。