*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
間合いが違う。技術が違う。
レベルが違う、桁違い。
でも、やるからには勝たねーと。
私を突き動かすのは、その気持ち。
「腹が立つくらい、肝が据わってんのね。」
容子が佐和を小突く。インカレが終わり、帰りの新幹線の席でぼんやり座る佐和は、うーん、と唸る。
「でも、不完全燃焼だなぁ…。」
「そう?」
「うん、イメージと動きが合致しない。ちぐはぐしてた。」
「はたから見てる分には、危なげなく二本先取の楽勝試合に見えたけど、」
「容子さん、言い過ぎ。」
「私にはそう見えたって話。」
小声でくすくすと笑う容子に、佐和は背もたれに身体を預けて溜息をついた。
団体戦補欠出場だった佐和だが、途中から交代して試合に出場していた。
「大健闘じゃん、無敗の女王健在。」
「やめてよ、負けてもないけど勝てなかった試合もある。」
「引き分けも戦略よ。」
「そーだけどさ…。」
「団体向いてないね。」
「うるせ。」
佐和は長めに息を吐く。容子はその様子を見て、ふ、と笑う。
「新人戦でその鬱憤を晴らすことね。」
「そーする。あーもう。」
インカレからおよそ一週間後の事だ。いよいよ寒さも本領発揮し始め、夜はいくらか冷え込むようになった。
23時を過ぎようとする頃、バイト帰りの仙道は携帯の着信に気付き、表示された名前を見て受話ボタンを押す。
「もしもし。おつかれさ」
『仙道?杉村だけど。』
「は?え、なんで?」
もう一度画面を見て、確かに佐和の名前が表示されているのを確認する。
『ごめんね、実は』
『おー!彼氏?仙道?久し振り、元気か?』
「…須藤さん、お疲れ様です。」
容子から唐突に須藤の声に変わり、眉根に力が入る。分からないように溜息をついて、言葉を待つ。
(そうだ、今日は祝勝会って言ってたな。)
『須藤さん返して下さい!…ごめんね、邪魔が入った。あのさ、アンタ車持ちだよね?これから言うところきて。佐和連れて帰って。』
『邪魔ってなんだよ容子ォ!』
『酔っ払いは黙って下さい!邪魔!馴れ馴れしい!』
「ごめん、メッセージで送ってくれるかな、すぐ向かうから。」
そう言って、すぐに走り出す。
『そうね、了解。出先だった?悪いね。』
「全然、教えてくれてありがとう。」
『詳しいことは後程。』
通話が断たれる。仙道は携帯を握り締める。知らず舌打ちをしていた。
「…よーこ。」
「佐和、仙道呼んだから。アンタは帰んな。」
「せん…え?」
「大丈夫?下戸だったんだね。」
「げこ…うん…そう…げこげこ」
「…喋んなくていい。お水飲む?」
「ん、」
(だーめだこりゃ。)
店先の、おそらく順番待ちのために用意されたであろうベンチに佐和と容子は並んで座る。手渡されたペットボトルのフタを開けようと佐和は試みているようだったが、手元が定まらず思うようにいかない。
「見てらんねーな。」
後ろからひょいとボトルが取り上げられ、容易く開けられる。そしてまた手元に戻される。
「…あれ、せんどー。」
「仙道!ごめんね、焦らせたね。」
「ううん、大丈夫、平気。ありがとう、容子ちゃん。」
仙道は佐和の隣に腰を下ろし、ペットボトルの水を飲む佐和を見ながらその向こうの容子を見る。
「誰かに飲まされた?」
「うん、誰かは分からないけどそうみたい。」
「誰でもいいよ、まいったな。」
「知ってた?下戸って。」
「うん、お兄さんから聞いた。」
ずる、と佐和がペットボトルを落としそうになるのを仙道がキャッチする。
「ありがとー。」
「いーえ。まだ飲む?」
「んー、いらないかなぁ。」
「じゃあ蓋しめるな?」
「うん。」
そのやりとりに、容子は瞠目する。その様子に仙道が吹き出す。
「顔、顔。」
「や……なんか、佐和が可愛くて。」
「知らなかった?可愛いんだよ。」
「惚気んな。こりゃ仙道がそんじょそこらの女子になびかないわけだ。」
「あはは。」
ボトルの蓋を閉めながら、仙道は、容子ちゃんは大丈夫?と首を傾げる。
「私は…まあ、多少入ってるけど。でも平気。未成年には飲まさないって主将は言ってたけど、他の奴…先輩がいけなかったわね。」
「容子ちゃん、ちょいちょいアレだね。」
「口悪い?」
「んー、辛辣?須藤さんあしらいがすごかった。」
「あの人はいいの。」
「よーこ〜。」
「はいはい、アキラくんに連れて帰ってもらいな。明日は休みだからね。間違えないのよ?」
「あい。」
「…従順じゃん。」
容子が立ち上がると、佐和も立ち上がる。それを見て仙道も立ち上がり、ふらつく佐和の肩を支える。
「いいの?連れて行って。」
「大丈夫、先輩には迎えが来るって言ってあるから。」
「ありがとうね。」
「こちらこそ。」
「よーこぉ、好き。新人戦がんばろおねぇ。」
「はいはい。私も好きよ。だから帰りな。」
「俺ジェラシー。」
「馬鹿言ってないで連れてって。じゃ、気を付けて。」
容子はそう言うと、店の中に消えて行った。
「かっけーな。容子ちゃん。」
「うん、すき。」
「俺のことは?」
「んー…。」
「そこは悩むところじゃないんだけどなぁ。」
仙道は苦笑しながら車に誘導し、助手席に乗せる。自身も運転席に乗り込み、もたついていた佐和のシートベルトを締めてやる。
「んー…せんどーは大好きかなぁ。」
ぱちん、とシートベルトの固定された音がやたらうるさく響く。
「…それは、それは。」
不意を突かれて目を瞬く仙道を、佐和はにこにこと眺める。
「あれぇ、照れた?」
「…うん。」
仙道は返事をして、佐和の唇に自身のそれを押し当てた。
「じゃ、出発しまーす。」
「らじゃー!」
元気に返事をする佐和に、仙道は声を出して笑った。佐和もつられて笑っていた。ラジオとカーナビの声も重なり、車内は終始賑やかだった。