*【藤真】彼はグリーンのサウスポー
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「…っと待てよ沢上!!武田信玄かお前は!!」
「なんで追っかけて来るのよ!」
「逃げるからだろ!」
結月は息を切らしながら廊下を走った。角を曲がり、階段を降り、渡り廊下を駆けていく。しかしストロークの差は歴然で、藤真はその距離をどんどん縮めていく。
「おいこら!廊下は走るなって習ったろ!」
「藤真だって走ってんじゃん!」
「走らねーとお前見失うだろ!なんで逃げんだ!」
すると堪らず結月は振り返る。
「あんたが追っかけて来るから」
「!馬鹿、こっち見んな、前!!」
結月が前を向くと、以前邪魔だと馬鹿にした柱が目の前にあった。
(終わった!!さようなら私の低い鼻!!)
チッ、と舌打ちが聞こえたと思えば結月の体は、ぐん、と後ろに引っ張られる。足がもつれ、そのまま倒れこむ。
「ってぇ…。」
「いたた…。」
引力の正体は藤真で、すんでのところで結月の腕を引いた。しかし勢いで、結月は尻餅を、藤真は正面から床に倒れこむ形となる。
「かっこわりい…。大丈夫か、沢上。」
「大丈夫、ありがと…でも!これにて!」
「馬鹿野郎、逃がすか!」
藤真は立ち上がろうとした結月の腕を再度引き、後ろから抱き込んだ。結月は諦めて降参とばかりに両手を上げる。
「何で逃げたんだよ。」
「だって…振られるの嫌じゃん、無かったことにして。」
「しねーよ馬鹿。」
「…明日から話しかけないでね。視界にも入るな。」
「横柄な奴だな。お断りだよ。」
藤真はくつくつと笑い、一層腕に力を込める。
「俺も沢上のこと好きだし。」
その言葉に結月は脱力する。今なんて、と絞り出したか細い声に、藤真は吹き出す。
「キャラじゃねーだろ、それ。」
「…好きだよ、沢上。俺の彼女になって。」
なんなのアンタ、と小さくこぼした結月に、藤真はいつまでも笑っていた。
「あ、ちょっと…あ!」
「馬鹿、ちゃんと援護しろって。」
「…懲りねえな、お前らは。」
担任の手帳で小気味良く頭を叩かれ、2人は携帯を取り上げられる。HRが終わると仲良く職員室に呼ばれ、担任が深い深い溜息をつく。
「藤真、推薦取り消すぞ。」
「それは勘弁してください。」
「沢上、センター近いんだから集中しろよ。」
「モーマンタイっす。」
その言葉に藤真が結月の後ろ頭を掴み、下げさせ、自身も頭を下げた。
「おい、反省の色を出せよ。」
「実際センター対策は余裕のよっちゃんだし…。」
「聞こえてんぞ。」
小声で言い合う2人に担任は更に深い溜息をついた。
「なんでお前らみたいなのが成績優秀なんだろうな…神さまってのはいるんかね。」
携帯を受け取り、解放された2人は昇降口に向かって歩き出す。
「なんで藤真かなぁ。」
「なんで沢上かねぇ。」
上履きと靴を履き替え、外に出る。冷え込みを増した空気に結月が身震いする。
「お前薄着だよ、それ。」
「あれ、いつの間にマフラーなんて。」
「さみーし。」
「ずるい。私も明日からマフラーだな。」
そう言って鼻をすする結月を藤真は横目で見ると、自身のマフラーを外して結月に巻いてやる。
「うわ、恩を着せられた。」
「しっかり返せよ。」
「売店のマミーでどう。」
「安いな、もう一声。」
「ありがとう、大好き。」
「よし、許す。俺も好き。」
そう言って笑い合い、手を繋ぐ。
「本当に体気を付けろよ、お前センターあるんだから。また肝心な時に体調崩すぞ。」
「そうだね、シャレになんない。藤真は結果待ちだっけ。落ちろ。落ちて一緒にセンター受けろ。」
「馬鹿、縁起でもねーこと言うな。センターは申し込んだから受けるし。」
「嘘だよ、受かるって信じてるよ。」
「わかってるよ。」
そう言って藤真は結月に口付ける。突然のことに結月は立ち止まり、目を瞬かせる。
「キスされた。」
「キスした。」
「…藤真、」
「んだよ。」
「好き。」
「おう。」
行くぞ、と手を引く藤真に、結月はついていく。
彼の右手に彼女の左手。自由きままな彼の左手が、彼女の頬を滑って紅く染めた。
fin.
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2019.12.14〜2019.12.15