*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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合宿から戻り、荷物を片付けて帰ろうかという頃、同じ合宿日程だった男子バスケ部もクラブハウス棟に居て、なかなかの人口密度になっていた。もちろんそこには、彰も居た。…藤真さんも、いるけど。
そうは言っても、高校の時とは比べ物にならない疲労感にそれどころではなく、正直口もききたくないところ。
「大丈夫?寮まで送るよ。」
「平気だよ、昨日に比べたら全然。ありがとね、佐和。」
夕べ熱を出した同期はまだあまり顔色が良くなくて、思わず声を掛ける。
「私が一緒に帰るからあんたは心配しなくてよろしい。」
容子が笑いながらこちらに寄ってくる。もちろん、彼女にも疲労の色が窺える。
「容子も疲れてんじゃん、まとめて私が送るよ。」
「うーるさい。あんたもお疲れなんだからさっさと帰って家の人安心させてあげなよ。」
私は由佳ちゃんの実家でお世話になってることになっているので、どーせ1人だから大丈夫だよ、の言葉を飲み込む。
「イーケメン、また女の子口説いてんの?」
「あ、彰…おつかれ。」
「仙道じゃん、おつかれ。佐和なんとかしてよ、連れて帰って。家近いんでしょ?」
「容子ちゃんに頼まれちゃ断れないなぁ。」
「容子ちゃん…?」
「ん?」
「いつからそんなに仲良くなったのよ、私たち。」
「あはは、すんません。佐和のがうつった。」
辛辣な容子に彰は意に介さず笑う。私が彰の二の腕のあたりを軽く叩くと、容子は溜息をついた後、こちらに手を振る。
「おつかれ。気をつけて帰るのよ、佐和、アキラくん。」
ふ、と笑った容子はなんというか…大人のお姉さんだった。彰も驚いていて、容子と同期の後ろ姿が見えなくなると、吹き出す。
「あっははは!美代ちゃん強化版!」
「かっこよすぎて言葉が出なかったよ…。」
遠くで藤真さんと須藤さんが談笑してるのか見えたから、お疲れ様です、と声を掛けて帰った。あの2人、仲良いんだなぁ。
「インカレ出るんだ!」
「補欠だけどね。」
「すげー…。」
「閻魔帳バレたおかげなんだけど…あ、その後に新人戦もあるんだ。」
「へえ、秋なんだ。」
「あ、そういやバスケは5月末頃やってたね。」
自宅までの道すがら、ようやくいつぞやの本題を話すことが出来た。
「彰は合宿どうだった?」
「野郎と顔突き合わせてバスケ三昧。」
「事実を聞いてるんじゃなくて。」
「あはは、わかってる。すごく充実してたよ。海外の提携校とも試合したし。冴えてたなぁ〜。」
「へえ!…また彰の試合観たいなぁ。」
「練習試合、いくつかうちの大学でやるから都合が合えばみにきてよ。大歓迎。」
そんな話をしているうちに、自宅に到着する。
…もう、着いちゃった。
鍵を開けて、ドアを開けて。
どうする?
「ね、彰。」
「佐和。」
声が重なった。お互いに顔を見合わせて、苦笑する。
「先どーぞ。」
「ううん、彰から。」
じゃあ遠慮なく、と言うと、彰はこちらに手を伸ばしてきた。玄関に押し込まれ、ドアが閉まる。そして、
「…佐和さん。」
「…なんでしょう。」
「熱ありませんか。」
「え?」
額に当てられた手がそのまま前髪をくしゃくしゃと混ぜる。
「やめ、やめてよ!」
「もー…佐和さん、もおおおお…。」
「牛かよ、なんだよ。」
「今すぐ触れたい抱きたいでもこんな状態じゃダメだろ。絶対ダメだ俺。」
「落ち着いてよ…」
熱って、自覚すると急に症状を感じるのなんなんだろう。足に力が入らなくなってきた。
「気が抜けたせいだ…責任取って、」
「佐和っ!」
「…一緒にいて。」
そのまま意識を手放した。