*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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「高辻、なにそれ。」
女帝に見つかった閻魔帳。
隠すわけにもいかず、とにかく、笑ってみた。
合宿3日目のことだ。夜練が終わり、入浴を終えて就寝前の自由時間、彰との電話のために休憩スペースに移動していた。
「ん、じゃあね。おやすみ。」
彰の声を聞くと今日の疲れも無かったことに…はならないけど、気持ちは上を向いた。
今日の気付きや発見などをノートに書き連ねる。自分のことはもちろん、目に留まった部員全員のことを分析するのは楽しい。怪我をしてからというもの、新しい楽しみを見出して益々剣道を好きになった気がした。怪我の功名っていうのかな。…賢い。
「いたいた。探したよ。」
その声に振り返る。こちらを見て微笑んでいたのは女帝。彼女は4年生で、2年次の新人戦では個人優勝、3年次にはインカレの個人戦でベスト4入りしている猛者。はっきり言って、全然歯が立たない。常に目で追ってしまう存在だ。
「高辻、なにそれ。」
私の手元を見て、首をかしげる。
「はは…えっと…日記?」
「面白くない回答ねぇ。」
そう言って隣に座る。そしてノートを取り上げ、中身を見て、こちらを振り返る。
「あんた、こんなことしてんの?」
「あ…はい。」
「早く言いなさいよ!…っと、そうじゃない、ちょっと来て。」
女帝はそう言って、ノートを持ったまま歩いて行くので私は慌てて後を追った。
たどり着いた部屋に入ると、監督に主将、それと、主に2年の主力が集められているようだった。女帝に促されるまま進むと、容子が居た。
「高辻と杉村、新人戦団体戦Aチーム確定ね。高辻は個人も出そうと思う。やれるね?」
女子主将の言葉に、容子と顔を見合わせる。すると女帝が、監督に私のノートを差し出していた。しまった、忘れてた!
「こんなん書いてますよ、高辻。」
先輩たちが怪訝な目で私を見る。ちょっと、誤解ですって!悪い事なんてひとつも…あ、克ちゃん笑ってる、こら!
「高辻、お前なんでこんな大事な事隠してたんだ。言えよ。」
監督がノートをざっと見るとこちらに差し出すので慌てて取りに行く。隠すなんて人聞きの悪い。
「…申し訳ありません。個人的なメモなので。」
「あのなぁ、有益な情報は共有するべきだろう。」
「有益…ですか?」
「おーい、お前ら全員高辻に丸裸にさてんぞ、大丈夫か。」
その言葉に室内が騒ついた。男子の主将がこっちを見てノートを指差して、持って来いと合図する。仕方なく差し出すと、うわ、と声が漏れた。なんか…すんません。
「高辻、分析癖あるんすよ、高2の時から。怪我してなんもできねーって鬱憤晴らすみたいに書いてました。」
須藤さんが笑いを堪えながらフォローらしきものを入れてくる。全然ありがたくない、それ。
ノートを返してもらい、容子の隣に座る。容子はこれの存在を知っていたので、微笑んで背中を2回軽く叩いてくる。ドンマイ、な。ありがと。
本題は新人戦とインカレのメンバーのことだった。
「今の見て俺、気が変わったわ。高辻、インカレ団体補欠で入れ。最近内容もいいしな。」
「は、い!」
一部2年生の視線が少し痛かった。でも、こればっかりは勝負なんだし、全然怖くない、平気。
部屋に戻る時、女帝に声を掛けられる。
「高辻、それ。」
女帝は笑顔で自身の薬指をとんとん、と指差す。そこで、右の薬指にはめていた指輪に気付く。しまった、忘れてた…!
「外しときなよ。」
慌てて指輪を外す私に、笑いながら近づいて来る。
「バスケ部のハリネズミ君だっけ?」
「は、ハリネズミ…?」
「頭ツンツンしてる子でしょ。仙道君だっけ?偉いよねぇ、浮かれてないでお互いにちゃんとしててさ。」
「…ありがとうございます。」
「照れてる照れてる。あはは!その調子でしっかりね。」
肩に手を置かれる。そして、あとね、と続ける。
「何かあったら、ちゃんと言って。後輩の活躍をよく思わない子もいる。その気持ちは分からなくもないけど、許すつもりもない。悔しかったら強くなるしかないしねぇ。」
そう言って笑う。私より少し小柄な先輩は、私よりうんと大人だ。
「はい、ありがとうございます。」
「杉村、あんたもだよ。遠慮せず言うんだよ。」
「はい。お気遣いありがとうございます。」
「2人とも、仲良くね〜。」
そう言って、廊下を颯爽と歩いて行った。
「…めちゃかっこいいよね、女帝。」
「…うん。」
容子の言葉に素直に頷く。いいなぁ、あんな風になりたいよ。