*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この焦りがなんなのか、本当は分かっていた。
「バイト終わってから電話しても出ないから佐和のバイト先行ったらさ、先輩送ってったって目撃情報を得て。」
仙道は笑いながら経緯を話す。
「細かい場所まではさすがに誰も分からなかったみたいだけど、こっちの方って聞いて。土地勘あるとこで良かった。」
「すれ違わなくて良かった…。バイトお疲れさま、スポーツジムだったね。大変?」
「さんきゅ。ジムの風呂使わせてもらえるから得だよ。」
「いいなぁ。私もそっちにしようかな。」
「お、大歓迎。」
「でも少し遠いのがネック。」
「あはは、そーだな。」
佐和も仙道につられて笑うと、それに仙道は安堵の息を吐く。
「良かった。」
「え?」
「元気でた?」
「…うん、ありがとう。」
「どういたしまして。」
佐和が部屋のドアを開けると、仙道は手を離す。
「じゃ、おやすみ。」
「あ…うん、おやすみ。」
佐和は笑って返すが、仙道は怪訝な顔をした。それに気付き、佐和は首を傾げる。
「なに?」
「大丈夫じゃない顔してる。」
「は?」
「佐和せんせー、顔に出る。」
「やめてよそれ。」
佐和が困ったように笑うのを見て、仙道はそっと顎を掬い上げ、鼻先がつくくらい顔を近づける。
「怖かった?」
「なにが。」
「男の人。」
「……そうだよ。」
「俺も男だけど。」
「それ、分かってて言ってるよね。離して。」
佐和は仙道の胸を押すと、ドアを閉めようとした。しかし仙道は足を挟み、ドアに手を掛けた。
「もう遅いよ。俺、帰りたくない。」
「それは女の子が言うから可愛いんだって。」
「じゃあ言ってよ。」
「…。」
「っていうか、本当は帰らないで欲しかったよね。」
「!」
「ごめんね、わかってた。試すような真似して本当にごめん。」
仙道は、力が緩んだのを見てドアを開け、玄関に体を滑り込ませると、静かにドアを閉める。
「でも、佐和に言って欲しかったんだ。」
「帰らないで、帰っちゃやだ、って。」
佐和は急に何かを思い出したかと思えば、赤面して俯いた。仙道は鍵をかける。
「……あ、思い出した?この台詞。」
「よく覚えてるね…。」
「嬉しかったから。佐和こそ、覚えてないと思った。」
「今の今まで一度も思い出したことないよ。酔ってたんだから。」
仙道を招いて佐和の実家で行われたインターハイ祝賀会の時に春翔ふざけて佐和に酒を飲ませ、酔った佐和が口走った台詞だった。
「……。」
「じゃあ、他の言葉でもいいや。」
そう言って、佐和の髪を掬い上げて耳にかける。
(大学入ってから、急に可愛らしくなった気がする。そりゃ男は放っとかねーよな。)
「…ほんとは、ずっと一緒にいて欲しい。」
佐和がポツリとこぼしたその言葉が終わるか終わらないかのところで仙道は佐和を抱き締める。佐和はバランスを崩すと、玄関の段差に足を取られ、背中から倒れる。
「いた…くない、あんまり。」
「わり、ちょっと間に合わなかった。」
仙道が手をつき、衝撃を和らげる。結果的には佐和の上に仙道が覆いかぶさる形となる。
「ありがと。でも、どいて。」
「最高のシチュエーションじゃね?このままここでどう?」
「最低!どいてったら!不能にすんぞ!」
「あっはは、佐和さんたらこわーい。」
息を巻く佐和に仙道はおどけて笑うと、腕を引いて起き上がらせる。
「もう…。」
「あはは、痛いとこない?」
「ないよ、ありがとう。彰は?手首痛めてない?」
「無事〜。」
「もう!大事な体なんだから考えなよ。私は頑丈に出来てるから多少のことは大丈夫。」
すると仙道は少しむっとして顔を近づける。
「佐和の体も大事だ。だからもっと大事にして。」
「そのまま返すよ、ばーか。」
そう言って、佐和は口付ける。
「私も彰が大事だよ。」
「…嬉しい。」
「彰?」
「もっと呼んで。もっと、」
「俺のこと好きって、わからせて。」
どんどん綺麗になっていく君が、俺の手の届かないところへ行ってしまうのではないかと不安になっていたんだ。
仙道がそう言うと、佐和は笑いながら、そんなことないよ、と言って抱き締めた。
(…泊まってもいい?)
(…いーけど。)
(佐和、眠れないかも。)
(眠ります。)
(断言するなんてあんまりだろ…。)