*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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私はこの気持ちを知っている。
車内では終始藤真が会話を回していた。今回の飲み会出席の経緯や、実際にどんな感じだったのかなど。
「俺が仙道を誘ったんだよ。だからこいつのことあんま責めんなよ。」
礼と共にそう言い残し、手を振った。
「…責めるつもりなんてないけどな。」
「でも、ごめんな。」
「ううん。不可抗力でしょ、大丈夫…気にしちゃいないよ。」
(嘘だよ。気にしないでいられるわけないじゃない。)
佐和は前を向いたまま笑っていた。仙道はその横顔を笑わないで見ていた。
やがて仙道の実家のガレージに車を停めると、佐和はキーを渡して車を降りた。そして何事もなかったように、じゃあね、と自宅に戻ろうとした。
「待って、送るよ。」
言葉とは裏腹に、仙道は乱暴にその腕を掴む。佐和はその力に、反射的に払おうとした。
「な、に。びっくりした…。いいよ、ひとりで帰れるから。」
「どうして拒むの。」
「そういうのじゃないよ。」
「今、払おうとしただろ。それも力一杯。」
「驚いたんだよ、彰がこんな風にすることなかったから。」
(嘘だよ。本当は、少し腹が立ってる。仕方ないって分かってても…理屈じゃない。)
佐和は俯くと、かぶりを振った。その様子に仙道は怪訝な顔をする。
「…家まで送る。もう遅いよ。」
「すぐそこだからいいって。」
「……嫌だ。」
「彰?」
佐和が顔を上げると、そこには眉間に皺を寄せ、険しい表情で見下ろす仙道がいた。
「どうしたの?辛そうだよ?」
「…そんなんじゃねーよ。」
「酔った?気持ち悪い?」
「違ぇって。」
仙道は腕を掴んでいた手を離すと、指を絡めて繋いだ。今度は、優しく。
「いこ。」
「…わかったよ。」
佐和は溜息をついて、折れる。繋いだ手を握り締めて歩き出した。
鍵を開けてドアを開けると、繋いでいた手を解く。
「送ってくれてありがとう。おやすみ。」
「…。」
「彰?」
返事をしない仙道に、佐和が首を傾げる。すると仙道はそのまま玄関に押し入り、ドアを閉める。驚いてよろめく佐和の背中に手を回すと、力一杯抱き締めた。
「ちょっと!苦しい…っ!」
「大丈夫の嘘はつかないでって、言った。」
「嘘なんて、」
「本当に?ついてない?」
詰問するような声音に、佐和は体を小さく震えさせる。仙道は耳元で、ほら、と低く囁く。
「女の子と居たの、嫌だったんだろ。」
「そんなこと、」
「この先何回もあることなんだからいちいちそんなこと言ってらんない?そうだよね、佐和はそう言うんだろうなぁ。」
仙道は笑うことなく淡々と言った。その声に佐和は目を瞠る。
「でも、そんな建前いらねぇ。佐和の気持ちを聞かせてくれよ。俺、ちゃんと聞くから。」
そう言って、漸く体を離す。仙道は佐和の顔を覗き込んだ。
「ごめんな、嫌な思いをさせて。」
「謝らないでよ。」
佐和は困ったように笑う。そして今度は自分から仙道を抱き締めた。
「やきもちやいた。」
「うん。」
「本当は、彰のことぶん殴ってやりたい。」
「うん。」
「でも、彰は悪くないし、藤真さんの話を信じるなら何も怒るところない。」
「そう?」
「そーだよ。でも、これは気持ちの問題だから、」
そう言って佐和は体を離して仙道を見上げ、首を傾げる。
「一発殴らせて?」
「ええ!?殴りたいけど殴らないって方向じゃないの!?」
仙道は慌てた。しかし佐和は、歯ぁ食いしばれ、と拳を握る。
「い、痛くしないでね…。」
「おーう、優しくしてやるよ。」
「いやだイケメン。」
「いい加減黙れ、舌噛むぞ。」
「…っはは、よかった、いつもの佐和だ。」
仙道は目を瞑る。来るべき衝撃に身構えた。
「本当、馬鹿みたい。」
佐和の小さな笑い声に目を開けると、首に手を回して顔を近付ける佐和がいた。
「目開けないでよ。」
「やだ。最高じゃん。」
「…気が削がれた。やめた。」
「ええー!」
抗議の声を上げる仙道を尻目に佐和は靴を脱いで家に上がる。そしてしっし、とばかりに手で払う仕草をした。
「もーいーから、早く帰りなよ酔っ払い。」
「あんまりだぁ。」
背を向けた佐和に、仙道はくすりと笑う。
「敵に背を向けちゃいーけないんだ。」
「わ、ちょっと!」
仙道は、のし、と後ろから佐和を抱き締める。佐和は振り返って文句を言おうとしたが、その唇を塞がれる。
「…優しくしてやるよ。」
さっきの台詞をそのまま返され佐和は目を見開くと、唇に軽く噛み付く。
「いてっ。」
「調子に乗るな!帰れ!」
「やだよ、入れた佐和が悪い。」
「勝手に入ったんじゃん!」
「きーこーえーまーせーん。」
「あーもー酔っ払いやだ、めんどくさい!」
「傷付くなぁ。」
仙道はくつくつと笑い、佐和を抱き上げる。
「観念するんだね。」
「……もういいよ…でもお風呂くらい入っておいで、居酒屋くさい。」
「はーい。寝ないでねー。」
ベッドに佐和を下ろすと嬉々としてバスルームに消えていった。佐和は本当に寝てやろうかとタオルケットを被ったが、朝が怖かったので睡魔と戦うことを選択した。