*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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私は少し、考えが甘かったみたいだ。
佐和が帰り支度をして店を出た時、先に出て行った先輩が誰かと話しているのが聞こえた。初めはあまり気に留めず帰ろうとしたが、様子がおかしかったので佐和はそちらに向かった。
「あの、困ります。」
「もう暗いから送るよ。」
「やめて下さい!」
その声に、佐和は羽織っていたパーカーのフードを被ると2人の間に躍り出る。相手は中年の男性だろうか、佐和より身長はやや低いくらいだった。佐和は先輩を振り返ると、大丈夫?と尋ねる。
「……何か用でも?」
「な、なんだお前は!」
「見たまんまだよ。」
佐和は先輩の肩を抱き寄せる。男は舌打ちをして小走りに駆けていった。姿が見えなくなったのを確認すると、フードを外す。
「はー…ありがとうね、高辻ちゃん。」
「いえ、怪我はないですか?」
「大丈夫だよ。」
「あの人、お客さんですよね?」
「うん…。」
「先輩、一緒に帰りませんか。」
そう言って、佐和はもう一度フードを被った。
(ちょっと遅くなっちゃったな。)
先輩を自宅まで送ると、漸く帰宅の途につく。フードは被ったままで、やや早足で自宅を目指す。
「偶然だなぁ。」
しばらく行くと、先程の男が立っていた。佐和は無視を決めて通り過ぎようとしたが、不意に上着を掴まれ、フードが外れる。さら、と肩あたりまで伸びた髪が揺れる。
「なーんだ、女の子だったのか。あ、もしかして、あの子を選んだことが癇に障ったのかな?」
下品な笑いをする男に、佐和は寒気を感じた。掴まれていた上着を力任せに引っ張り、羽織り直すと、そのまま走り去ろうとする。
「待ちなよ、まだ話は終わってないじゃないか。」
男は気味の悪い笑みを浮かべて、今度は腕を掴んできた。
(ど、うしよう。……怖い。)
思ったより強い力に、気持ちが萎縮する。
(情けない。怖くて、声が出ない、なんて。)
(これが、おとこのひと…。)
「佐和!!」
その声に、男がそちらへ意識を向けた。その瞬間、佐和は男の腕を払いのけて声の方へ走った。
「彰!!!」
塞がってしまったように声の出なかった喉が急に機能し始め、その名を呼んだ。仙道は駆け寄ってくると、佐和を一度抱き締め、すぐに自身の後ろにやった。
「…この子に何か。」
その冷たく重い声に、佐和は身震いをした。自分に向けられたわけでもないのに、どこか冷酷さを感じさせるその声は心臓を締め付けるように響く。その声をまともに食らった男は、何も言わず、逃げるように去って行った。
「佐和、大丈夫だよ、もう居ないよ。」
仙道は体を捻って佐和の方を見た。佐和は背中に張り付いたまま動かない。
「…うん。」
「手、繋ご。このまんまじゃ歩きづれぇや。」
「あ、ごめん。」
「謝らなくていいよ、怖かったな。」
「…。」
佐和は俯いたまま、仙道の指に自身の指を絡めた。仙道は佐和のこめかみに口付ける。
「帰ろう。」