*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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いつもより早く終わった土曜練。
同期に別で帰ることを告げて、階段を上った。
(バスケ部はこの階だっけ…。)
廊下をきょろきょろとしながら歩いていると、曲がり角で人とぶつかる。横からの衝撃に佐和は耐え切れず倒れ込む。
(いっ……!?)
その拍子に、左の脹脛が攣った。思わず悶絶する彼女に、ぶつかった相手が傍に膝をついて顔を覗き込む。かたん、とスプレー缶の置く音がした。
「わり、大丈夫か。」
「大丈夫です…。」
独特の訛りに驚きつつ、半身を起こして笑いかける。相手は佐和の異変に気付き、脚に目を遣る。
「攣ってんべ。あっちのベンチ座れ。」
「あ、はい…。え、あ、自分で立てますから。」
不意に自分の腕を相手の首に回され、脇に肩が入ったと思ったら立ち上がらされていた。その慣れた手つきに驚きながら、されるがままにベンチに座る。
「…おめぇ、何部だ?そんな痣さこさえて。」
「え、あ、剣道部です。痣なんて日常茶飯事で…」
「おい河田ァ、コールドスプレーどこやっ」
曲がり角から藤真が姿を現わす。河田と佐和の様子に一瞬ぎょっとした表情を見せるが、すぐに笑い出す。
「佐和、なぁにやってんだ。」
「藤真の知り合いか。」
「妹。」
「願い下げです。」
「俺の妹ならもう少し出来がいいもんなぁ。」
尚も笑い、藤真は床のコールドスプレーを拾い上げる。河田は溜息をつくと佐和の左脚を持ち上げて伸ばす。
「わ、大丈夫です、自分で」
「いてえか?」
「いえ、大丈夫です。…いやあの!」
(めちゃ力加減上手いんですけど!?)
藤真がスプレーを使いながら、ポカリでいいか、と河田に言い、おう、の返事を聞くとそのまま去っていった。やがて筋肉の突っ張りがおさまるのを見ると河田は佐和を見上げる。
「よーく使ってんな、脹脛。」
「あ、はい…。」
「ちゃんと休ませねえと。」
そんなやりとりをしているとバスケ部員と思しき男性がわらわらと現れる。その中に、仙道もおり、2人の姿を見るや否や駆け寄ってくる。
「佐和!」
「彰、お疲れ様。」
「なんだ、仙道の知り合いか。」
「彼女です。」
即答する仙道に河田は驚くも、豪快に笑い出す。その声の大きさに佐和はぎょっとする。
「わりわり、そーかそーか。」
「脚攣っちゃってね、河田さんが助けてくれたの。」
「そーだぞ仙道、なんもやましいことはない。」
いつの間にか戻ってきた藤真が笑いながらそう言うと河田にポカリを手渡す。それを受け取りながら河田は立ち上がった。
「俺がぶつかった拍子に転げちまって。そしたら脚攣ってよぉ、様子見てた。」
「そうなんですか…ありがとうございます。」
「ご迷惑をお掛けしました。」
「何言ってんだ、俺が悪かった。大事にしろよ。」
そう言って片手をひらひらさせて河田は他の部員たちと同様に出口の方へ去って行った。一部始終をみていた藤真は笑いを堪えている。
「何ですか藤真さん。」
「知らぬが仏ってな。」
「…はあ。」
釈然としない様子の仙道を見て、佐和は藤真を軽く睨んだ。藤真は、おっかねえなあ、と笑いながらアリーナの方へ消えて行った。
「練習早く終わったんだ?」
「うん、だからバスケ部見られるかなって。休憩?」
「そー。でもすぐ再開だよ。」
「じゃあ、上から見てるね。」
「脚は?」
「大丈夫。」
仙道はベンチの隣に膝をつくと佐和の左脚を持ち上げて口付ける。
「ばっか、なにしてんの、やめてよ!」
「んー…心配で。」
「わかった、わかったから!誰か見てたらどうするの!」
慌てて辺りを見回すが幸い人影はない。
「くれぐれも気をつけて。練習夕方まであるから一緒には帰れないけど。」
「分かってるよ。私もバイトだし。」
「今日は体育教室のバイトだっけ、この脚で出来るの?」
「教えるだけだから。」
そう言って佐和は仙道の肩に手を置くとゆっくり立ち上がる。それに倣って仙道も立ち上がった。
「ん、問題なし。」
「そかそか、それはよかった。」
「河田さんの処置が良かっ…」
「……え?」
しまった、とばかりに手を口に当てる佐和に仙道が顔を近付ける。
「…様子を見てただけじゃないってこと?」
「後で、ちゃんと聞かせてね。」
手を退けると、軽く唇が押し当てられる。やましいことがあったわけではないが、なんとなく恥ずかしくて黙っていたかった事案だったので、自分の迂闊さに頭を抱えた。
(ほんっっっとに馬鹿…河田さんも、藤真さんでさえ黙ってたのに…!)(絶対馬鹿にされる!)