*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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たった2年と笑った。
その2年は、恐ろしく長かった。
あちらはどうなんだろう。
何を思っているのだろう。
「佐和せーんせ!お疲れ様です!」
「馬鹿、からかうんじゃないよ。」
佐和は男子生徒に立ちはだかるように腕を組んで仁王立ちする。
「携帯隠せよ。立場上一応先生なんだから、こっちは。」
「実習生じゃん、見逃してよ。」
「うーるさい。チクられたくなきゃしまえ、隠せ。」
「高辻先生、なにやってんだ?」
生活指導教員の声に生徒と佐和は肩を震わせる。生徒はすぐに携帯をポケットに滑り込ませる。
「いえ、授業の感想を聞かせてもらおうと思って呼び止めたんです。ね?」
「あ、そうそう、俺も、面白かったんで話したくて!」
「…ぎこちないんだが。」
「やだなぁもう!」
4年になり、教育実習のために母校を訪れた佐和は懐かしい景色に破顔する。陵南は私立のため、教員の入れ替えもさほど多くはない。指導担当は在学時の担任なので非常にやりやすい。
「俺は猛獣使いじゃねえんだけどな?」
懐かしい台詞には声を出して笑った。同時に寂しさも湧き上がったが、全て自分の笑い声に載せて吐き出した。
「大学でも随分活躍してるみたいだなあ。」
顧問に声を掛けられる。新人戦では2年連続個人優勝、インカレには2年から団体で出場し、3年次の個人戦では優勝していた。無敗の女王健在、と雑誌のインタビューを受ける程。
「…無理してんじゃないのか。大丈夫か。」
「してませんよ。大丈夫、楽しくて仕方がないんです。」
(何かに集中していないと、得体の知れない重苦しいものに引きずられてしまいそうで。)
「じゃー今日で高辻センセは最後なので、この時間は先輩として何か聞きたいことがあれば質問していい時間とするー。なきゃ、センセ、なんか喋れ。」
担任はそう言って教卓の傍のパイプ椅子に座る。佐和は苦笑しながら教卓に立つ。
「みなさん、今日までありがとうございました。何か質問ありますか、進路とか…」
「高校の時バイトしてましたか!?」
「挙手をしろ、挙手を。してません。部活に青春の全てを捧げました。」
「なんで教師になろうと思ったんですか?」
「ん…みんなに、無駄なことはひとつもないんだよって伝えたかったから、かな。」
「日々のなかのひとつひとつ全てが繋がって未来が出来上がる。失敗も成功も後悔も全部、後から振り返るとこの時のためだったんだって思う日が来るよ。それを、伝えたくて。」
その横顔を、担任は微笑んで眺めていた。そして、挙手をする。
「先生?」
「彼氏とはどうなんですかー?」
にやにやと見上げる担任に、佐和は血の気がひいていくのを感じた。生徒たちは興味津々だ。
「あ…の。アメリカ留学中です。バスケの。」
「へえ、仙道とまだ付き合ってんのか。」
「ちょっと、せんせ」
「いーかぁお前ら、恋愛はいいんだ、すれば。こいつらみたいにやることやって結果出して周りに文句言わせなきゃいいんだよ。」
「なんつう乱暴な…。」
生徒たちは大爆笑で、質問の時間は大いに盛り上がった。佐和は頭を抱えながら質問に答えていった。
「高辻、体育教師の枠空いてっから、良かったら来いよ。」
担任はそう言って笑って報告レポートに判を押した。
帰り道、佐和は埠頭に向かっていた。
(楽しかった。けど、なんとなく…気分が下向きだなぁ。)
風は相変わらず強く、夏とはいえ過ごしやすい。パンツスーツなので、スカートがどうかといった心配もない。佐和は荷物を抱え直す。右手の薬指に少し緩めの指輪をはめて、掲げ見る。
「スカートで来ちゃダメだよ。」
空耳が聞こえるようだった。丁度2年前もこの場所で海を眺めた。長かった髪は成人式が終わってすぐに切ってしまった。短い髪は高校の時とまるで同じで、感傷的な気持ちにさせた。
「髪、切っちゃったんだ。長いのも好きだったんだけどなー俺。」
佐和は二度瞬きをすると、振り返る。
「…久し振り。元気?」
仙道が、立っていた。
結局一度も帰国せず、渡米したきりになっていた彼は、何も変わらない笑顔で手を振っていた。