*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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小春日和の穏やかな昼下がり。
(おや?)
途絶えた連絡、応じないインターホン。
首を傾げて店舗を覗いた。
「いらっしゃいま…彰か、どうした。」
千尋さんが営業スマイルから一転、真顔で首を傾げる。
「佐和と連絡がつかなくて、インターホンも出ないんですよ。」
「あー…ちょっと無理させたからな。」
「はい?」
千尋さんに手招きされ、レジの横の通路に入る。右に調理場のスイングドア、左にスタッフオンリーと書かれた引き戸。千尋さんがその鍵を開ける。
「今日は由佳たち出掛けてる。佐和1人でいるけど…わかってんな?」
もちろんです、わかってます。
だからそんな目で俺を見ないでください。
自宅に繋がる戸だったようで、1階のよく知ってる玄関に出た。佐和の家は二世帯住宅で、見たことはないけど1階はご両親の生活スペースになっているらしい。
俺がいつも招かれて食事をしたり寝泊まりするのは2階。
2階には広いLDKと小さな和室、佐和の部屋を含む客間が2つに、バストイレ。
3階は千尋さん一家の寝室があるらしい。
結構デカい家だよな。
佐和曰く、その昔は農家だったらしい。
リビングのソファーに仰向けで横になってる佐和の姿があった。
つけっぱなしのテレビ。
床に転がる真新しい竹刀。
お腹の上にはいつぞや見せてもらった閻魔帳。 何冊目なんだそれ。
手から落ちたのか、シャーペンとリモコンがソファのすぐそばに落ちている。
テーブルの上には剣道雑誌が置いてあり、付録のDVDを観ていたようで、その関連ページが開かれている。今年のインカレか。
「熱心だなぁ。」
思わず笑みがこぼれた。佐和のこういう所が好きだ。
「佐和、起きて。風邪ひくよ。」
「んー…。」
のろのろと両腕が上がる。起こして、ってことかな。しょーがないなぁ…。
「よっ、と。」
その手を取って、体を起こしてやる。佐和は膝を立て、顎をその膝に乗せる。腕を下ろしたそうだったので静かに離してやる。
「おはよ。よく眠れた?」
ソファの横に膝をついて顔を覗き込む。
俺の声に、目だけでこちらを見上げた。
何度か瞬きをした後、その目を見開き、顔を上げる。
「彰!?あれ、今何時!?ごめん!!」
佐和は慌ててソファから降りようとしたが、手をつき損ねてバランスを崩した。
「うお、あぶねっ。」
「あ、はは…ごめんごめん、ありがと。」
俺を下敷きにし、体を起こして照れ臭そうに笑ってこちらを見下ろす佐和に、溜息をつく。…リモコン壊れてませんように。
「気を付けないと。」
「善処します。」
それにしても、俺の腰あたりに跨るこの体勢はなかなか。
「いい眺めだなぁ。」
佐和の腰に手をあてがう。
「ばか!」
顔を真っ赤にして俺の手を振りほどき、さっさと立ち上がってしまった。残念。
「3回くらい死んだかと思った。」
「……おお。」
佐和は思い出し戦慄をして顔を青くした。免許を取ってから千尋さんの配達に同行して、運転の練習をしてるらしい。
「首都高速はもう走りたくない。」
無理させたって、そういうことか。
「ヒロくん、手広いんだよ。横浜市内とか23区とかまで行ってて。この間は海老名SAまで行ったし…。」
喋りながらDVDを片付けるのをみて、首を傾げる。
「見たの?」
「寝ちゃったけど…彰来たし、また後にするよ。」
「いいのに。一緒に見ようよ。」
「つまんないでしょ?」
「そんなことねーよ。面倒じゃなかったら解説して。」
佐和は一瞬驚いたが、笑い出す。
「いいよ、じゃあ見よっか。」
そう言って再生する。
時折、傍の竹刀を使って解説をしてくれる。知識のない俺でもなんとなくわかった。
佐和せんせー、やっぱ教えるの向いてるよ。
そう言ったら、やめてよそれ、と笑った。
「大学から竹刀の長さ変わるんだよ。」
「え、そうなの?」
「うん、一寸…3センチくらい伸びる。なかなか慣れなくて。」
ボールは変わるの?と尋ねてくる。
「中学上がった時に変わっただけだよ。あとはかわんない。」
「そーなんだ。確かにボールの大きさがいちいち変わるイメージないな。」
「男女で違うよ。」
「え!?それは知らなかった!」
そんな他愛のない話をして、時折キスをしたり、軽いスキンシップを図って、午後が終わっていく。
「あ、あとね、ついでに春から住む家も見てきた。」
「決めたの?」
「うん、3月の中頃には引っ越さなきゃだし。」
どの辺り?と聞いたら、内緒だよ、と笑っていた。
「彰は実家から通うの?」
「しばらくはな。後のことはまた考える。バイトして、車買いてーな。」
「お、しっかり練習して、私を乗せてね。」
「ほい、りょーかい。」
まだまだ卒検終わったばかりの若葉マークだけどな。