*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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少年が、ボールを片手で掲げ、首を傾げる。
「一緒にやる?」
少女は一瞬目を見開いたが、すぐに俯き首を横に振る。
「ううん、バスケわかんない。」
「そ?」
少年は少女に近づき、顔を覗き込む。
「…よくわかんないけどさ、無理することねーよ。」
「え?」
「つまんない奴のために、泣くことない。」
「泣いてねーよ。」
「あはは、うん、そーだな。」
年末、佐和は仙道の実家に来ていた。
「由佳ちゃんと赤ちゃんには年明けに挨拶に行くよ。」
そう言って、仙道の実家に一緒に訪れた千尋と別れた。
「ここが、例の公園?」
「そー、普通だろ。」
「彰にも小さい頃があったんだなー。」
「…本当に言ってるよ。」
呆れたように笑う仙道を余所に佐和は感嘆の声を上げる。
「都心にこんな広い公園があるなんて。」
「代々木公園とか広いよ?」
「そういうのとは違うだろ、比べ物にならないよ。同音異義語みたいなもん。」
「なにそれ。」
ボールを抱えた仙道が先に敷地に入る。
3×3ができるコートがあり、少し離れたところに遊具があった。
佐和もそれについて敷地に入る。
「うちの近くの公園より全然広いね。」
「3×3が流行り始めた頃、まだこんなに家が建ってなかったんだよ。だから敷地取れたんじゃないか?あ、最近改修したらしーよ、だから綺麗。」
そう言って仙道はボールを突いてゴールに向かい、軽くレイアップを決める。
(あれ?)
佐和はこめかみに手をやる。
(今の、どこかで。)
ボールを拾った仙道はその姿に不審がって、佐和?と名前を呼ぶ。
「あ、ああ。なんでもない。」
佐和はすぐに顔を上げると、微笑んだ。
仙道は首を傾げたが、そう?と笑ってコートの端まで戻ると、もう一度ゴールに向かって走り出した。
(あれ…あれ?もしかして、)
佐和はかぶりを振って、息を吐き出す。
冷たい空気に、吐息は白く舞う
がしゃん、と仙道がダンクを決めた。
「ね、彰。」
「昔、ここで会わなかった?」
その言葉に仙道が目を丸くする。
ボールが地面を転がっていく。
佐和は構わず続けた。
「双子が生まれてから間も無く、ヒロくんに連れられて由佳ちゃんの実家に来たんだ。」
「その時、この公園に来たことがある。」
「バスケの上手い男の子が、いた。」
「…それが、私の初恋の相手。」
佐和は仙道を真っ直ぐに見つめた。
「男子たちにいじめられた頃で、少し落ち込んでたんだよ。でも、そいつの声はとにかく優しくて。男子なんかみんな嫌いだと思ってたけど、全然違った。」
仙道が佐和にゆっくりと歩み寄る。
「この辺りじゃ見掛けない子が居たから声を掛けたことがある。そりゃもうすっげえ美少年で。」
「その年頃にしては珍しく俺と同じくらいの身長だった。なんだか切羽詰まった顔してこっち見てたからさ。心配になっちまって。」
そこまで言うと、佐和の頬に手を添える。
「こんな美人になるとは。」
そう言って、口付けた。
「ごめん。あの時、男の子だと思った。」
そう言って、眉を八の字にして困ったように笑った。
「ここまで偶然が重なると、なんか怖いな。」
佐和は笑いながら仙道の横を通り過ぎると、ボールを拾う。
「あの頃さ、お父さんともうまくいってなかったんだよ。」
そう言って、仙道の方を振り返る。
「稽古中ど突き回されるし、指導は厳しいし。…しんどかった。そのせいであんまり家で口聞かなくなってさ。」
今思えばお父さんの気持ちもわかるんだけど、と苦笑する。
「とにかく、その頃はヒロくんしか、男の人は信用できなかったんだよね。春兄も秋兄も県外の大学通ってて家に居なかったし。」
ボールをワンバウンドさせて仙道にパスをする
「あの時優しくしてくれてありがと。」
そう言って、微笑む。
仙道もそれに応えるように微笑む。
「どういたしまして。」
ゴールに向かって、ボールを放る。
綺麗な放物線を描いて、ネットに吸い込まれていった。
(うそだよ、泣いていたよ。)
(男にも優しいんだね。でもちょっと複雑。)