*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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まだ夏前だと言うのに、夏休み明けに開催される文化祭と体育祭の準備が始まっていた。それというのも、どの部活動もインターハイ予選の為にスケジュールがタイトになるので、隙間を縫っての準備となるためだった。
「体育祭種目、出場者…っと。」
「漏れはないか?」
体育祭の委員になってしまった越野と佐和は名簿に抜け漏れがないか入念に確認する。
「大丈夫そうだな。」
「放課後の委員会はこの提出だけだっけ?」
「そーそ、中身確認するだけ…だよな?」
入学してまだ2ヶ月も経たないくらい、クラスメイトとも打ち解けたかそうでないかの時期に体育祭の出場種目決めをするというのもなかなか大変で。誰がどんな種目に適してるかなんて正直さっぱりわからなかった。
「越野は仙道びいきだね。コイツ結構出てんじゃん。」
「バスケ以外はポンコツだけど、走るのは大丈夫だろ。うちのクラス陸上部少ねーし。」
そういう高辻も結構駆り出されてんな、と言われ、佐和は溜息をついた。
「頭使うのよりはうんとマシ。」
放課後の体育祭委員会に出ると、越野が声を掛けられる。どうやら部活の先輩のようだ。
「池上さん!ウース!」
「ウス、越野。お前も委員なんだ。」
「クジっすよ。早く部活行きたいです。」
「はは、だよなぁ。」
そんなやりとりを見た佐和も、全く同感と言わんばかりに頷いた。
やがて委員会が始まり、取りまとめの3年生が各委員から名簿を受け取り、確認をしていた。その間に今後の委員会スケジュールや準備の段取り、担当などの書かれた資料が配られる。今日はその資料の配布だけで、次回までに目を通しておくように、とのことだった。
一方、名簿確認担当は名簿を見ながら、誰やらがどの種目に出る、などの笑い声とともに脱線しており、委員会の収拾がつかなくなっていた。
「げ、めんどくせ。早く部活行きてえんだけど。」
越野がぼそっと言う。佐和もその言葉に頷き、池上は苦笑いを浮かべる。
「こりゃ長引くんじゃねえか…?」
「委員長さん困ってますよね?」
「バシッと言えよ!ってなぁ。」
そんな小声のバスケ部先輩後輩を横目に、佐和は苛立ちを隠せなくなってきていた。
(何この無駄な時間…。)
そんなことが脳をよぎるかはやいか、言葉が口をついて出る。
「あの、」
一際通る声が空気を震わせ、教室の中は水を打ったように静まり返った。
「お手伝い、しましょうか。」
佐和は笑うでも怒るでもなく、腕を組んで淡々と声を発した。
「あ、ううん、大丈夫だよ。」
委員長は困った笑顔で佐和に返した。
「じゃ、名簿に問題がなければ帰っても良いですよね。」
静かな威圧感に気圧された女子たちが慌てて名簿の確認をし、大丈夫、と小さな声で返事をした。佐和はリュックを背負い、立て掛けていた竹刀袋を持つと、お先に失礼します、と軽く頭を下げて教室から出て行こうとする。越野を振り返り、行かなくていいの、と声を掛けた。
「お、おお、おう。行く行く。」
越野はその声に我に返ると、池上さん、と先輩にも声を掛け、同様に教室を出た。
「高辻、おまえ肝据わってんな。」
「正直、驚いたぞ。」
越野と池上にそう言われ、佐和は振り返ると困ったように笑った。
「 だって、部活の先輩の方が怖いから。」
2人は顔を見合わせると、確かに、と納得し、自分たちも例外ではない、と体育館に向かって走り出す。佐和も早足で武道場に向かった。
(あーあ、怖い怖い。)