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意外と不器用で、
見た目通り真っ直ぐで。
「ごめん、隣いい?」
小さな声に、松本はそちらを見る。同じ学科の女子生徒は片手を顔の前に立てて席についた。
「あ…。」
「?」
「あの、受講票余分に持ってたりする…?」
「ある。ほら。」
「ありがとう!」
安堵の笑みを浮かべた彼女は小声で礼を述べるとそこに氏名を書く。
徳重 依紗、松本は何の気無しにその名を頭の中で反芻した。
「松本くんだ、え、もう模型組んでると!」
人がまばらの学部棟のラウンジで作業をしていた松本に、依紗が声をかける。独特のアクセントと語尾に松本は知らず笑んだ。
「部活が忙しいから進められるだけ進めないといけなくて。」
「私、まだ設計段階なのに…。頭抱えてて。」
「俺でよかったら相談に乗ろうか。」
「助けて!」
「あはは。」
依紗は持っていた図面を見せ、指をさす。
「ここ、強度が合わんと。」
「角度を変えたら大丈夫なんじゃないか。」
「へえ。」
「屋根の面積が変わるから気を付けて。」
「すご、こんげ簡単に解決すると思わなかった!ありがとう!」
「いや…。」
松本はいよいよおかしくなって、くすくすと笑い出す。その様に依紗は首を傾げた。
「なに?」
「徳重はどこの出身なんだ。」
「宮崎。」
「だからか。独特な言葉だなって。」
「松本くんもよ。秋田だっけ、気付いてないだけで似たようなもんだよ!」
「だよなぁ、ごめんごめん。」
依紗は、ふん、と鼻を鳴らして図面を片付ける。松本もその様子を見て作業に戻る。
「てこずってんね。」
「上手く付かなくて。」
「接着剤、少し乾かしてから付けた方が付きやすいよ。」
依紗は、貸して、と細い棒を松本の手から取ると接着剤をつけ、軽く振る。
「ここでいい?」
「ああ。」
あっさり接着した骨組みに、松本は感嘆の声を上げる。
「器用だな。」
「松本くんが不器用なんだよ。」
「言ってくれるな。」
「あはは。慣れてるんよ。」
「慣れてる?」
「これ。」
笑いながら、依紗は自身の目蓋を指差す。
「つけまつげ。これと同じ要領。」
「え、わからなかった。」
「うそ、こんな立派な屋根こさえてたらわかるでしょ。秋田は美人多いからつけるひとおらんのかね。」
依紗はげらげらと豪快に笑うが、松本が真摯な目を向けるから思わず口に手を当てる。
「え、なに。」
「徳重は綺麗だよ。きっと、それがなくても綺麗だと思う。見たことないからわからないけど。」
そのストレートな物言いに依紗は言葉を失った。松本の目に嘘や世辞の色は見えない。にこ、と微笑んだその表情に依紗は思わず目を逸らす。
「く、口説き文句よそれ、松本くんこっわ。」
「怖い、って…。」
松本は困ったように笑うと、作業を再開する。組み上がっていく模型に依紗は見惚れていた。
「… 徳重?」
「ん?」
「自分のはいいのか。」
「いーよ、私は部活とかないから。模型の段階に入ったらこっちのもん。」
「得意?」
「うん、作るのは。製図が苦手。」
「俺と逆だな。次の課題は協力しないか。」
またとない提案に、依紗は一も二もなく首を縦に振る。松本はそれを見て笑う。
「これはいい味方ができた。」
それはこっちの台詞だよ、が出ず、依紗は松本に気付かれないように小さく息をついた。
(心臓うるさい…!)
Mr.Honest
それが無意識なら
とんでもなく罪深いひとだ。