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初恋は叶わないんだって、
誰だかしらないが言っていた。
本当にそうかも。
だってほら、今まさに、想い人は去っていく。
「頑張ってくるんだぞ。」
山王バスケ部の監督さんが栄治と握手を交わしている。バスケ部はみんな大きい。圧倒されてしまう。同様に逞しく大きな幼馴染みの後ろ姿を、彼のお父さんとお母さんのそばで見ていた。ああ、そういえばうちのお母さんに頼まれてた餞別、渡さなきゃ。
「依紗からはなんもないの。」
挨拶を済ませた栄治が私の方に歩いて来る。
「お母さんから。」
「さんきゅ。よろしく伝えて。」
「うん。気を付けて行って来るんだよ。」
「うん。」
こちらを見て首を傾げる栄治。なにが言いたいの、ハッキリしろ。
「手紙、書くから。」
「うん?」
「メールもする。」
「ありがと。」
「だからさ、そんな顔すんなよ。」
「元からの顔にケチつけんな。」
眉間にしわを寄せて言い返すと、栄治が吹き出した。
「寂しいって、顔にかいてあんべ。」
「かいてねっし!」
「俺、アメリカ行ってひと回りもふた回りも大きくなるよ。」
「ミキオくんみたいに?アメリカナイズも甚だしいよ。」
「ふぁっ!?」
「流れ弾ピョン。」
あちらで何かやりとりが聞こえたが、栄治が、ばーか、と言うので軽く睨む。
「そういうことじゃねっての。」
「もったいぶんな、なによ。」
「… すき。」
「…は?」
耳まで真っ赤にして、少し俯き加減に呟いた。さっきまでの余裕はなんだったんだ、急に照れんな!こっちまで恥ずかしいよ!
「帰って来たら、言うつもりだったんだ。」
「え、は?」
「でも、依紗のそんな顔見たら言わずにはいられねがったっつうか…。」
放送が聞こえる。ほら、あんたのフライトのアナウンスじゃん、行かないと。
「行きなよ、帰って来るかもわかんない奴のことなんか待ってられねっての。」
「迎えに来る、必ず!」
「信用できない。向こうのボインなお姉さんたちにほだされるにきまってる!」
「されねーよ!信用しろよ!絶対迎えに来る、かっさらってやる!」
「早く行けばか!しらない!」
「俺が覚えてるからなんとでもいえばいいよ!でも絶対、」
「絶対なんてない!期待させんな!」
「そんなに俺が好きなのか!」
「そうだよ!」
しん、としてしまった。そうだ、ここ、空港だ。みんな、いる。栄治のお父さんとお母さん、ぽかんとしてる。否、お父さんは笑いを堪えてる。私たちは顔を見合わせて、きまり悪く俯いた。
「…俺、帰国の度にプロポーズに行くからな。逃げんなよ依紗。」
「その度に断ってやる。」
「俺諦めねえぞ、絶対、はい、って言わせてやる。」
「言わせてみろ。早く行け。」
「行くよ、ばーか!」
そう言って栄治は私の唇を掠め取って走って行った。まるで映画のワンシーンのように、颯爽と。ああ悔しい、かっこいいじゃないか。
…しょーがない。待っててやろうかな。
イエローベリーは上機嫌につき
臆病者の虚勢を打ち砕いたのは、
泣き虫の強烈な一手。
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ワンライ参加作品
『初恋』