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(牛乳飲んだ、りんごも買った、準備オッケー…)
依紗はカウンター席に通され、座る。メニューを眺めて深呼吸。この一週間、心身共になかなかハードだったので、金曜の夜は台湾ラーメンで締めてやると決めていた。
(ニンニクはトリプルだ…!)
普段はニンニクなしか、入れてもシングルにしていた。しかしながら週末は完全オフ、土日あればニンニクは抜けるだろうとの読みだ。そして冒頭の通りぬかりはない。
(いまだスタンバイオーケー!)
「台湾ラーメン、ニンニク…ダブルで。」
(チキンかよ!!!!)
アイヨォ!と店員が威勢よく返事をする。いざ注文しようとした時にビビってしまい、ダブルを選択。そんな自分にかなり拍子抜けし、テーブルに頬杖をついて口を尖らす。
「ラーッシャイッセー!!!」
入り口の開く音がすると店員はそちらに声を飛ばす。元気いいなぁ、などと思いながら依紗は水の入ったコップに口を付ける。
「台湾ラーメン、ニンニクトリプルで。」
躊躇いのない注文に依紗は思わずそちらを見る。するとそこにはよく見知った顔が。
「諸星、じゃん…。」
「お、徳重!おつかれさーん!」
上機嫌に笑う諸星は、ネクタイを緩める。
「あれ、そっちのチームは新年会じゃなかった?」
「よく知ってんな。そーそ。でももう終わったよ。」
「早くない?…と。」
依紗は自身の腕時計を確かめようとしたが、つけていないことに気付いて慌てて店内を見渡す。時計は見つからない。
「ここにあんぞ、ほれ。」
「あんたのじゃん。…うん、金曜の夜にしちゃ早いでしょ。」
彼の腕時計で確認し、首を傾げる。諸星は、あはは、と快活に笑う。酒のせいか、いつもより笑いの沸点は低いようだった。
「うちの部署はみんな疲れ果ててるから。徳重みてーに。」
「私は別に。」
「今週ずっと残業してただろ。」
「なんで知ってんの。」
「見てたから。」
それから、と諸星は意味深長に笑う。
「腕時計どこに置いて来たかも忘れちゃうくらい疲れてるみたいなので。」
そう言って、テーブルに依紗の腕時計を置く。
「え、これどこに?」
「先輩から預かった。…先輩と飲みに行ってその店に置き忘れた、んだろ。」
依紗は血の気が引くのを感じた。隣の男は尚もおかしそうに笑う。
「先輩、わざと俺に渡したんかね。なんの牽制だよ、付き合ってもねーくせに。…だよな?」
「ちょっと、何言っ」
「台湾ラーメンニンニクダブルお待たせーッス!」
遮るように依紗のラーメンが届けられる。2人はきょとんとするが、すぐに笑い合う。
「お先に。」
「おう、食え食え。」
「いただきまーす。」
程なくして諸星のラーメンも届くと、一言も交わすことなく黙々と頬張る。時折ピッチャーの水を互いのコップに注ぎ合い、また黙々と箸を進める。諸星の方がやや早く食べ終わり、ひとつ息をつく。
「ぜってーくせーわ。」
「ふふ。」
「んだよ、お前もだろ。」
「私は万全の対策をしているので。」
「なになに、教えてよ。」
「食べる前に牛乳、食べた後にりんご。」
「なーんだ、民間療法じゃん。」
「あ、バカにしてるでしょ。りんごの酵素に笑うやつはりんごの酵素に泣くわよ。」
依紗は手を合わせ、小さく、ごちそうさまでした、と呟く。諸星はそれを見て微笑むと、ごちそうさまでした、と同様に合掌する。そして依紗の伝票と自分の伝票を持つ。
「ちょっと、それ私の。」
「いいって。それより、これ。」
諸星は差し出された手に伝票ではなく腕時計を乗せる。レジに進み、支払いを済ませると外に出た。
「ごちそうさま。ありがとね。」
「どういたしまして。冷えるなー。…徳重、家どこ?送るわ。」
「結構です、1人で帰れます。」
「つれないな。」
「簡単につられてたまるもんですか。」
ふふ、と笑う依紗に、諸星は苦笑する。
「…りんご。」
「え?」
「俺もりんご、食う。」
「…っはは。だから?」
「言わせんの?」
「言ってごらんなさいよ。」
「徳重ん家、行っていい?…それか、うち来ねえ?」
鼻を擦りながら、少し照れたように目線を寄越す諸星に、依紗はたまらず吹き出す。
「笑うなよ。」
「散々思わせぶりなこと言ったんだから、ちゃんとしてくれなきゃ怒るよ?」
そう言って、駅の方を指差す。
「送ってくれる?りんごをごちそうするよ。」
「喜んで。」
並んで歩き出すと、諸星は依紗の手の甲を軽くノックするように小突く。
「手、繋いでいい?」
「しょうがないな。」
「手、ちっちゃ。」
「諸星の手が大きいんだよ。」
そう言って見上げた依紗に、諸星が軽く口付ける。
「徳重、好きだよ。」
「…ん、ありがと。でもニンニク臭いよ。」
「お前もな。」
「さいあく。台無し。」
そんなことを言っては朗らかに笑い合う。
結局電車はやめ、駅前で折りよく見つけたタクシーに乗り込んだ。
Oh!Garlic!
(運転手さんごめんなさい…。)