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こんな日を、ずっと待っていた。
同棲を始めて最初の年越しとなった。実は今までも一緒に年を越したことはなく、電話を繋げて通信障害に悪態をつきながら新たな年を祝った。紆余曲折を経てようやく一緒に住むに至り、そして今日、いよいよ、依紗と年を越そうというのだ。
ボルテージはMAXだ。互いに酒がすすみ、しかしどこかで保たれている理性によって部屋は清潔を保っている。食べ終わったもの、飲み終わったものはある程度たまったら洗う、捨てる、など。
「大!大変!あと10分で年越しちゃう!」
皿を洗っていると、テレビの画面を見ていた依紗が興奮気味にソファの上に立ち上がる。まて、いま酒持ってるだろ。
「落ち着けよ。ほら座って。酒テーブルに置いて。」
「あ、ごめんこぼした。」
「なにやってんだよ。布巾行くぞー!」
「ナイスパス!あ、またこぼした!」
「いい加減にしろ!なんでさっさと置かねえんだよ。」
「投げるのも悪い。」
「そうでした。」
こうなりゃ無礼講、2人の家だし掃除したらいい。賃貸だけど。中古の合皮のソファに散った雫を拭き取りながら依紗は申し訳なさそうに笑う。
「ごめんね。」
「いいって。パジャマは?汚れてない?」
「うん。」
「ならよし。」
拭き終わった布巾を依紗から受け取り、2枚洗ってソファに座る。そうこうしているうちに残り3分。さて、どうする。
「とりあえず、手!」
「お、おお。」
「えーと……それから……どうしよっか。」
手を繋いだまま無言でテレビ画面を眺める。依紗の手、冷たいな。緊張してんのかな、どうしようか。え、緊張?待て待て待て、俺も緊張してきた。今年も残りわずか、どうせなら、どうせなら—————
どうしよう、手を繋ぐだけじゃ面白くない。でもいつも電話越しだったのが今年は体温を感じられる。こんなに嬉しいことはない。これ以上は求めちゃバチが当たる。そんなことを悶々と考えているうちに画面に数字が映し出される。もう1分を切った!
「じゃ、ジャンプしようか!」
「は?」
「ほら立って!」
その時、私が握っていたはずの大の指が器用に絡みついて力が込められた。驚いてそちらを向けば今度は反対の手が私の頬をすり抜けて耳の下、最後は後ろ頭に行き着いた。
そして、気がつけば距離はゼロ。
「ん……、」
まだカウントダウンは聞こえない。まって、まさか残り数十秒このまま!?だめ、むり、恥ずかしくて死ぬ!
「…… 依紗口開けて。」
「や、」
まんまと返事をすればその隙間からすべり込んでくる舌。生き物のようにうごめく。気持ちいいやら、怖いやらで逃げ出したいのに後頭部をおさえられて逃げられない。こんなの知らない、知らない!!
「!!!………ってぇ……!」
「あ、あ……ごめん!ごめん!!」
「や……俺の方こそ……」
思わず舌を噛んでしまった。口を押さえて呻く大の肩に手を置いて顔を覗き込む。すると目だけでこちらを見上げた大の視線とかち合う。思わず、怯む。
「……血、出た。」
「ご、ごめん!大丈夫!?」
「うん。なめときゃ治る。」
「そっか、よかっ」
「舐めてよ。」
眉間に皺を寄せ、口角を上げたと思えばぺろりと舌を出してみせた。確かに私が噛んだせいで血が滲んでいる。
いつもならこんな笑い方しない。酒だ、酒のせいだ。
「ほら、カウントダウンだ。5、4、」
躊躇う私を嘲るように距離を詰めた。
「口、開けて。」
罪悪感と、ほのかな期待に言われるまま口を開けて自ら大の舌を自身の舌先で触れた。その瞬間に盛大な効果音と音楽が流れ出す。
初めてした2人の年越しは鉄の味がした。いまは世界に2人きり。そんな錯覚に陥るような年越しだった。
はじめてのNew Year's Eve
新しい年を、君と迎える幸せを。
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