他全国
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
もしも叶うなら。
「粋だねぇ。」
軒端ではなく昇降口に飾られた笹。梅雨真っ只中なので当然といえば当然。長机に短冊が置かれ、ご自由にどうぞとのこと。友人たちとおもいおもいの願い事を書いて笹にぶら下げる。
「何書いた?」
「甲子園に連れて行って。」
「彦星じゃ無理っしょ。」
「私の彦星ならきっと大丈夫。」
「あまーい!!全体的に甘い!!」
女子高生が何人も集まれば騒がしいことこの上ない。本気なのかふざけているのかわからない短冊がひしめき合う。この笹、色んな意味で重いんだけど最後どうするのかな。燃やすのかな。
「あんたは何書いたの?」
「えー?」
半ば本気で書いたそれを、隠すように他の願い事たちに紛れさせた。もし叶うなら、本当に叶うなら。若気の至りに任せたそれを、高校最後の七夕だ、見られたところでわかるものか、などと言い訳をしながらもほんの少し期待してしまった。ああ若い。なんて若いんだ。
「あ、いいところに!諸星たちも書いていきなよ!」
昼休みの売店という戦場の帰り道をゆく男たちを友人が呼び止めた。諸星を筆頭にでかい男たちがげらげらと笑いながら近寄ってくる。余計なことを!いやファインプレー!おっと…。
「お前何書いたの。」
大きな体を折り曲げて長机に向かって小さな短冊に書くさまはどうだ。滑稽とまでは言わないがなかなか面白い。
「彦星に出逢いますように。」
「そーなの?じゃあ俺は織姫に会いに行きます。」
「なにそれ、意味わかんない。」
「今のところ彦星はいない?」
「居ないよ。馬鹿にしてんの?」
「ひねくれてんなぁ!そんなんじゃねえて。」
諸星は大きな字で全国制、まで書いてある。覇の字がわからないのか、馬鹿じゃん。いや私も書けないけど。一緒にいた男子に聞いたがやっぱりわからなくて携帯で調べていた。多分そこでつっかえるから担架で運ばれたんだよ。
「なに笑ってんだよ。」
「え?べつに。」
「もういいじゃん、彦星待たなくても。」
「ええ!?困るよ!!」
「俺にしといたら、星違いで悪いけど。」
何食わぬ顔で笹に短冊をぶら下げながらそんなことをささやいた。周りには聞こえていたのだろうか。誰も特別な反応はしていない。聞き違い?それとも私が思ってる意味合いとは違う?期待するだけ無駄なんだろうか。
「……え、なにその顔。」
平然としていた、あるいはそれを装っていた諸星の顔がみるみるうちに赤くなった。口元を手で覆い、目を逸らす。
それより先に体温を上げていたのは私だ。自分でもわかる、頬が熱い。仕方ないじゃない、嬉しかったんだもん。
なぜなら、私の願い事は、
隣の一等星が、好き。
頼むからこれ以上怪我はしないでね。
それが一番の願い事かな。
-----------
2021年七夕