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あなたに比べると
自分がいかに俗物か思い知らされる。
「……なにしてるんだ、それ。」
「おつかれ。近隣の方からね、笹を頂いたの、で!」
「大丈夫か。そうか、明日七夕だったな…。」
昇降口に笹と七夕飾りをつける作業をしていると、クラスメイトの松本が声を掛けてきた。自分よりもいくらか背の高い笹を立て、固定させるところで手を貸してくれる。
練習着が体に張り付くくらい汗だくなのに、疲れを感じさせないほど手際良く作業を手伝ってくれる。すぐそばの体は練習内容を思わせるだけの熱を放っていて、なのにこいつはどうしてこんな涼しい顔してるのかと感心してしまう。見てるこっちが暑い。…熱い。
「ありがとね。」
「先生とか他の生徒会役員は。」
「先生は職員会議で、他の子たちには明日の生徒会選挙の最終調整と会場の設営任せてるから。」
松本こそどうしてこんなところにいるのか。少なくともここに用事はないはずだ。
「こんなとこでなにしてんの、練習は。」
「休憩だよ。教室に忘れ物思い出して。」
「それはそれは。」
そう言うとさっさと教室棟の方へ走って行った。男手ってのはこういう時助かるなぁ、なんて思いながら長机を組み立て、短冊とボールペンを設置する。今日の明日、といういささか遅めの対応だが、気持ちだけ七夕感を出しておくことにする。近隣の方のご厚意を無駄にするのもなんだし。
「願い事書くの?」
戻ってきた松本が首を傾げて笑う。それにつられて私も笑うと、松本はなんかある?と尋ねてみる。
「徳重は?」
「彼氏が出来ますように。」
「…重いな。」
「そーよ、しっかり叶えてもらわないと。」
「はは。そうだな、俺は…。」
じっとこちらを見ながら思案する。ちんけな少女漫画なら「俺も。彼女が出来ますように」って手を握ってくる展開だ。…いや、知らないけど。
知らないけど、その視線に鼓動が早まるものだからたまらない。たまらないのに、逸らせない。
「バスケ部三年、全員無事卒業出来ますように。」
「それこそ重いよ。」
とんでもなく切実な願い事に、声を上げて笑ってしまった。松本も珍しく声を出して笑っている。
「書いといて。休憩終わっちまう。」
「はいはい、おつかれさん。」
「徳重も。あんま根詰めるなよ会長。」
笑顔を残して走り去って行く後ろ姿に手を振った。しばらく足音の余韻に浸ったあと、青の短冊に言われた通りの文言を書く。
「真面目なんだから。」
一番高いところに飾ろうと思ったけれどさすがに届かないので、届く限りの高い位置に飾ってやる。
「これなら部員の目線に入るかな。」
そうつぶやいて、もう一枚短冊を手に取る。ああ宣った以上書かないわけにはいかない。胸の奥でくすぶる感情をなだめながら、ボールペンを持つ。
『すっきりと卒業出来ますように。』
彼の目線に入らない低い位置に、精いっぱいの気持ちと勇気を込めて。あるいは、卒業までにこの気持ちにけりをつけてやろうという、決意表明。
おもいひとひら
なにはともあれ、彼の願いが叶いますように。
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