大阪
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放課後、携帯の画面を見て、ばたり。机に突っ伏して息を吐く。やっぱ今日は映画行かれへん、のやと。受験生やししゃーないわな。私は進路決まってるからええけど、アイツは決まってへん…のやろな。補習ならしゃーない。
「なあ、調子悪いん?」
その声に勢いよく体を起こす。え、誰。あ、バスケ部の…土屋!
「徳重さん、やったっけ。」
「あ、うん、そう。」
「どしたん。帰らへんの?」
言いながら私の前の席に座る。頬杖ついてにっこり笑い、軽く首を傾げる。
「ん…もう帰るよ。」
「元気ないやん、振られた?」
「ふっ…!?」
こいつ、なんなん!?土屋はくつくつと笑い、ごめんごめん、とあまり気持ちのこもっていない詫言を述べる。そんなもんは要らん!
「ふられたんちゃう。や…そうなん…?」
「僕に聞かれても。」
「映画ドタキャンされてん。補習らしくて。しゃーないやん。」
「聞き分けよく、仕方ないね〜、とか言ったん?」
「まあ、はい。」
「名前は?」
「大河原。」
「他校?」
「うん。豊玉。」
土屋は、おお!と閃くと携帯を取り出し、操作をすると耳に当てる。通話を始めたようだ。
「おつかれさーん。いまええ?南、大河原知っとる?おお、そーか、知っとるんか!」
土屋はそこからハンズフリーにして机に置いた。なんのつもり…?
「今日補習なん?南も?」
『俺はもう大学決まっとるから関係あらへん。大河原は帰ったで、彼女と。』
…彼女と。
「…へえ。」
思わず漏れた声に、南くんが怪訝な声をあげた。
『なんや土屋、誰かおるんか。』
「うん。僕の大事な子。いい子なんよ、今度紹介するわ。」
『要らへん。』
「そう言わんと。なんにしろナイスパスやったし奢らせて。」
『わけわからん。』
私は2人が楽しそう…もとい、土屋が、楽しそうに話しているのを見ていたら、自然と握り締めていた携帯を操作して耳にあてがう。土屋は南くんとやらと通話を続けつつも、目を細めてこちらを見ていた。
そんな顔でこっちみんな。
「…もしもし。」
『なんや依紗。俺補習やて言うたや』
「だったら何で電話出てん。とんだ抜け作やな。」
『…え、あ』
「うちらって、付き合うてるん?」
『…おお。』
「じゃあ、別れよ。」
『な、なんやねん急に、おい』
「愛想も餅もつき果てたんじゃボケカスハゲ!!!」
ぶつん。
声を聞いたら怒りが烈火の如く爆発してしまい、そのままの勢いでこいつの連絡先も消した。大河原、の文字は、この携帯のどこにもない。
『なんや修羅場か。もう切るで、俺。』
「うん、ホンマにありがとなつよぽん。君は健気な女の子を救ったわ。」
『はあ?知らんがな。』
そこでそちらも途絶えた。付き合いのいい友達やね。ありがとう、南くん。
…ありがと、土屋。
「ねえ、僕いいトス上げたよね。」
「うん。まあ、南くん?やけど。」
「えー。南のパスを僕が依紗ちゃんへのトスに変えて、鋭いスパイクに繋がったんやん。」
「はいはい。」
「流石バレー部のエースアタッカー、かっこよかったで。」
「おおきに。」
ふう、と私は息をつく。振り返るとなんであの男にこんなに拘っていたのか全然分からない。100年の恋も冷める、とはこのことなんかな。
「依紗ちゃんは、僕のいい子。」
「は?」
「わけわからん男の、都合の、いい子にされるのはかなわん。」
「…どういう意味。」
土屋はにこにこと笑いながら携帯を弄り、連絡先教えて、と言う。
「依紗ちゃんのクリスマス、僕に頂戴。」
「…。」
「予定、なくなったやろ。」
この調子だったらドタキャンされてたか、寒空の下待ちぼうけを食らうかのどっちかだったかもしれん。
「せやけど。」
「…もっと分かりやすく言った方がいい?」
「今は、いい。でも、クリスマスの予定は空いてる。」
「じゃ、決定な。」
私は土屋のことをよく知らない。クラスも一緒になったことはない。ただ、バスケ部のキャプテンってことは知っとる。すごく上手いのも、知っとる。
でも、それだけ。
「僕は依紗ちゃんのこと見とったんやけどなぁ。」
「え?」
「連絡先おおきに。帰ろ。」
土屋は立ち上がって笑う。鼓動が少し速度を上げた。傷心でもないのに涙が出そうになる。土屋にばれないように深呼吸すると立ち上がり、一緒に教室を出た。
「映画、行く?」
「今日はもうええ。」
折角いい気分なのに、変な男との約束を辿るようなことはしたくないから。
僕のいいこ
(もっと早く出会いたかった。)
(でも、遅くはない、かな。)