大阪
名前変換
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「南まだ戻らへんのか。」
岸本が辺りを見回した。あんたらセット売りやんけなんで一緒におらへんのや、を飲み込んで私探してくるわ、と駆け出した。
試合後のむさ苦しさの抜けたロッカールームにひとり、南が残っていた。集合やで、そう声をかければ、おん、と返す。
試合中、怪我の処置から戻った彼は出会った頃のそれによく似た姿を取り戻していた。ただただバスケが好きな高校生だった。妙にそれが私の胸をざわつかせた。そうだ、私はそんな南を尊敬していたし、好きだった。
好き、てライクのな。ラブとはちゃうねん。一応言うとくで。
「…。」
「え、なに。」
こちらをじっと見つめる南の視線に居心地が悪くなる。ほんの少しの沈黙の後、南が口を開いた。
「…やっとそれらしい試合した気がするわ。」
「え?ああ、憑き物が落ちたみたいやった。」
「まあ……そうやな。」
支度をすませてバッグを持ち上げた南はすっきりとした顔をしていた。すごくいい顔、多分、初めて出会った頃の彼はこんな風だったかもしれない。
「今の南は過去の南が繋がって出来た南やけど、今の南は過去の南よりうんと前を歩いとんで。」
「なんやそれ。」
自分でもまとまらないままの言葉を南は怪訝な顔で受け止めた。どう伝えたらいいかわからないけれど、今の気持ちをなんとかして伝えたかった。確かに出会った頃の彼に似ているけれど、経てきた道のりはあまりに険しい。それを乗り越えた彼は、うんとたくましい。
「ううん。お疲れ。いい試合やったで。」
「おおきに。マネージャー、… 徳重も、お疲れ。」
「……ん?んん、お、おーきに…。」
初めて名前を呼ばれた。なあ、おい、お前。彼からの呼び名はそれだけだったから。浅くなった呼吸を整える。ほんの少し駆け足になった心臓をなだめようとしてもどうも難しい。
怪我をした後の彼のいでたちが変わっていたのを思い出す。すっぽりと肘を覆ったリストバンド、それはきっと何かの決意なのだろう。
私には、それが鞘に見えた。