大阪
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別に付き合ってたわけでもないし、相手が私のことを認識してるかどうかもわからへん。ええねん、遠くから見てるだけで。なのに、たまったま、ぐうっぜん、映画館の前の広場のベンチに座ってたら意中の彼が女の子と仲良さげに機嫌よく笑いながらその入り口に吸い込まれていったものだから感情が忙しい。
別にラブホに消えたわけでもあるまいし。そんな生々しいとこ見たくないわ。いやまてほらでもそういうことするやろお年頃やし。え?するん?するんか?しらんけど。は?なんなん?これなんなん?
なんでこんなところに出くわしてしまったのだろう。せや、たまったま、ぐうっぜん、幼馴染みの薬局の小せがれから映画のチケット譲ってもらったからなんかみようかな〜なんて優雅に呑気に噴水眺めてたんやん。アホなん?なんで早よ決めて観て出て来んかったんや。
スタートラインに着くまえに決着、なんちゃってあはは。おもんな。山田くん、私の座布団全部持ってって。涙が出そうや。いや、もう出とる、ひっこめ。ああ気遣わしげなご婦人、見ないでください後生だから。大丈夫です、花粉症なんで。いやいま飛んでへんわ。
「一緒に観たってもええで。」
聞き覚えのある声が降ってきたかと思ったら、どかりとばかりに腰を下ろす。は?なんやねん。ホンマにでかいな、体も態度も。
「何しに来たんよ。」
「映画のチケット、今日までやったやろ。いつもなら何観たか報告しに来るくせに来おへんから忘れてんのかと思って。」
「わざわざ映画館まできたん?」
「電話出んから。」
「え?あ、ごめん。」
「で?なに観るん。」
隣に座った烈がベンチの背もたれに体を預けてこちらを見遣る。きょとんとする私にややいらだった様子で膝を蹴ってきた。痛い。いや痛くないけど。
「観るんやろ。なんや、あれか。」
「ホラーは嫌や言うてるやろ。」
「知らんわ。」
「知っとるやろ。」
表情を変えずにポスターを指差す。別にポスターに罪はない。しかしながらどうしてあんなに恐怖心を煽る禍々しい加工が出来たものかと恨めしい気持ちで睨んで、すぐに視線を外す。
さっきまで寂しいとか悲しいとかおもっとったのに、あっという間にそういう感情全部さらってぬりかえていく。なんなん?ホンマになんなん?
「べたべたのラブストーリー観ようや。」
「お前そういうの好きやなぁ。」
「なんならその隣のアクションものでもええで。」
「ええな。」
「話題のアニメは?」
「いっこもわからへん。どれが主人公や。」
「たぶん、ほら、…一番目立っとるのやろ。」
「お前も分かってへんやん。」
やっぱ大阪でも指折りのバスケ選手だけあるわ、流石のパス回し、テンポ最高。…関係ないか。それにしても心地よい応酬やなぁ、決めてるうちに上映時間終わるんやないやろか。それでもええか、楽しいし。
「……泣いたカラスがもう笑った。」
「……そんなカラスも悪ないやろ。」
烈は自分の膝に頬杖をついて、こちらをのぞき込むように微笑んだ。あかん、そういうのに女の子はやられるんや、絶対に落ちるもんか、私はいましがた失恋したばかりなんだから。
…そんな決意をしているこの瞬間、烈のことしか考えていない。そのことに気がつくまであと24秒。
ボールを持ってるのは、どっちだ。
フォロースルーに乱れなし
彼ならきっと外さない。
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