大阪
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取引先の小さな薬局。
カウンターで退屈そうに頬杖をつく、若い男の人。
同じくらいの歳かな、すこし気になる今日この頃。
「気ぃ付けて帰れよ。」
「おおきにな、にいちゃん!」
「おー。」
小学生くらいの男の子に笑顔で手を振る南さん。配達にきて早々、いいもの見たな。
こちらに気づく。
先程までの笑顔がみるみるうちに消えていき、いつもの仏頂面に戻ってしまう。やれやれ。
「毎度おつかれ、えーと、徳重サン。」
「なにそれ…。お世話になってます。これ、ご注文の。」
「おお。」
「あ、」
南さんは私から段ボールを取り上げ、店の中に入っていく。その荷物を床に置くと、棚から発注書を取り出す。段ボールを開け、検品をする。
「マスク、あったんか。」
「まあ…数は少ないですけど、出せるだけ。」
「おおきに。」
「え、」
「なんやねん。」
いただいた発注数より納品数が少ないマスク。よくないものが蔓延る中で、欠品が相次ぐ売れっ子。南さんは首を傾げる。
「いっぱいいっぱいなんやろ、ありがたい話やで。最悪なしかと思ったわ。」
「ありがとうございます。」
「はあ?」
他の取引先では結構詰られる。あちらもお客さんから同じように詰め寄られるのだろう。余裕のない人々の顔にうんざりしていた。
「本当に怖いのはウイルスより生身の人間だなって思ってたとこなので。」
「ホンマやで。この間もポッと出の客がマスク買い占めようとしたから追い返したったわ。」
「まじか。」
「おう。」
「あっ、すみません。」
「ええて。」
検品を済ませて、サインをもらう。帰ろうとしたところで、呼び止められる。南さんはボールペンを走らせ、何やら作業をするとそれをこちらに寄越す。
「徳重、これ。」
「なんですか。」
「お前にいま必要そうなもん。」
「ありがとうございます…お代は。」
「要らへん。気持ちだけでええ。」
「はあ…じゃあ、お言葉に甘えて。」
失礼します、と挨拶すれば、おお、と南さんは淡白に返す。お店を後にして配達車に乗り込む。気になって袋をみれば、処方薬用のそれで。
徳重 依紗様
大体5日分
食間
1回の服用量 適宜
中から出てきたのはポケットティッシュといくつかの飴。そして、1回折りされたメモ。袋をよくみると、南龍生堂の電話番号に線が引かれ、携帯電話の番号が。
『話くらい聞くで』
そのメモに、危うく涙を流すところだった。
飴玉をひとつ口に放り込む。
その恋はまるでレモン味
思春期のような甘酸っぱい感覚に救われてしまう自分はなんとも現金だ。