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自分の設計した保育園や幼稚園で子供たちが元気に遊んでいるところを想像するだけでわくわくするやん、最高!
そんな夢を抱えて入社した小さな設計事務所。ぴかぴかに磨いた夢はいま、過酷な現実に埋れて見付からない。
『徳重、ちゃんと発注書通り発注したんやろな!?』
「はい…。」
営業からの電話、最早怒声。すると他の人が、あ!と声を上げる。
「これ…」
「あっ…寸法変更になってます…。」
『なんやて!?』
どこに落ちてたかわからないメモ、見落としてしまっていたのかな、どうしよう…。
『…お前、頭スッカラカンなってへんか。』
「えっ」
『次はちゃんとやれよ!』
ぶつり、と途絶える。しばし受話器を眺めていたが、がっくりと肩を落とす。先輩がその肩に手を置き、笑いかける。
「失敗は誰にでもあるよ。次は気を付けて。」
技術者は、よっぽどのことがなければお客様に直接謝りにいけない。矢面に立つのは営業。当たりが強くても我慢しなくちゃ。代わりに謝ってくれる。代わりに、怒られてしまう。だから、仕方がないんだと言い聞かせた。
どんなに頑張っても追い付けないことはある。守れない約束はしないこと、それだけ意識して仕事をしているのに、守れないと分かって助けを求めても誰も助けてくれない、誰も助ける余裕がない。なんの地獄だろう。夢って、なんだっけ。
なにが異常って、設計皆勤24時。終電はない。泊まるか、ネットカフェで一夜を明かすかふたつにひとつ。頭がくらくらする。
当然、恋人に会う暇も削られる。どんなに時間を工面しても、突発の仕事に尽く潰されていく。
『俺のことはええから。依紗こそ、無理すんなよ。』
6年制の薬学部に通う烈はまだ学生。そうは言っても研修や研究で忙しい。すれ違う日々、消耗する心身。
私はどっちに向かって歩いているのだろう。
「聞いとるか依紗。」
「え、あっ」
久し振りに烈の家で会って、ゆっくり過ごせる日が来た。にもかかわらず睡魔は無遠慮に襲いかかってくる。
「ごめん…。」
「ええけど。仕事、忙しいねんな。」
「う、ん。」
「…話くらい、聞くけど。」
「大丈夫…。」
話したところで、わかってもらえるわけではないし、負担になるだけだ。せっかく2人で会えるんだもの、楽しい話をしていたい。
「…大丈夫ちゃうやんけ。」
「そんなこと」
「話してもわからへん思ってんちゃうか。」
「…実際そうやん。」
「ああ?」
「だってそうやろ、つまらんやんけ!」
「そんなこと言うてへんやろ!」
珍しく声を荒げる烈に怯む。構わず烈は苛ついたようにこちらを見下ろす。
「そんなに俺は頼りにならんのか。」
「ちゃう…」
「まだ学生やしな、社会人の辛さなんて知らへんねん。」
「だから!ちゃうって!」
「だったらなんで言わへんねん!」
「折角の2人の時間なのに楽しくしていたいの!」
「俺はお前とやったらなんでもええねん!全部言え!」
「いややこんなん、みっともな」
烈が私のブラウスの襟元を掴んでやや乱暴に口付ける。すぐに離れて、こちらを睨むように見据える。
「みっともないのも全部みせろ、きかせろ、吐き出せ!いまさら隠すな!」
その言葉に、喉の奥が震えだす。
「なんなん…もう…」
まともに言葉を発することが出来る状態ではなさそうだったが、口を開く。
「全っ然大丈夫やあらへん!なんも上手くいかへん!」
一度あふれ出した感情は止めどなく、喉の奥からせりあがり、なりふり構わず私の口から放たれていく。
度重なる変更、無茶な納期、固まらない方針、助けを求めても差し伸べられる手はない。出口の見えない迷路で、私はいつしか夢に追われるようになってしまった。
「なんでそんななるまで言わへんねん…!」
強い力が私を抱き締める。気が付かなくてすまん、悪かったと烈が小さく呟いた。なんで謝るの、烈はいっこもわるくない。
あやまらないで。
「ごめん…ごめん…烈はなにも悪くないねん、謝らんといて。」
「なに言うてんねん、たったいまお前を追い詰めたんは俺やで。」
「そんなことない…。」
「あるやろ。俺は依紗を泣かしたいわけちゃうねん。」
目元の涙を拭うように唇が寄せられる。
「烈がいてくれればそれでいいの、私。」
「は」
「だからお願い、見捨てないで、ちゃんと烈が好きだから。どんなに会えなくても、烈が待っててくれるって思えば私、大丈夫だから。」
「ようわからんけど、」
「俺はお前を離す気さらさらあらへんで。」
薄く笑って私の両頬を大きな両手で包み込む。つられて笑ってしまう。
「はは、そっか…そっか。」
烈は息をつくと、今度はがしがしと頭をかき混ぜてくる。
「わからせる術はいくらでもあるんやけどな、」
「は?」
「取り敢えず寝ろ。」
「依紗、熱っぽいで。」
please forgive me.
これからはなんでも話すから。
だから、これからも一緒にいてね。