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負けないように、枯れないように
笑って咲く花になろう。
同年代の友人達が家族を築いてく。私はといえば、初恋の人に空港で思いの丈をぶちまけて以来ゆるやかに歳を重ねてきた。親も友達もみんな状況をわかっているからせっついたりしないけれど、現実を思い知らされるようで辛い時もある。
「…え?日本に戻る?」
『おー。こっちでの契約が終わって、日本のプロに。』
「そんなこと、私に話してもいいの?」
『明日リリースだから、今日は黙っておいて。』
「…。」
『怒んなよ!これでも我慢した方なんだぞ!』
高校時代に渡米して以来、栄治はずっとあっちにいた。時折帰国しては約束通りプロポーズに来た。断るでもなく承諾するでもなく、ああそう、とだけ言ってあしらってきた。
…もちろん、本意ではない。本当は、本当はすぐにでも首を縦に振ってしまいたかった。
でも私はアメリカで暮らす自信なんてないしやってけるとは到底思えないから、でも栄治からも離れるのがいやだから、曖昧なことをしてずるずるとここまで来た。
学生時代はお金がないし、社会人になったら時間がなかった。長期の休みは国境を越えて会いに行くことはあったけれど、それも年に一度あるかないか。やはり私はアメリカの空気にも水にも馴染めなかった。ミルウォーキーの街は賑やかすぎる。そもそも広いんだよ、なんで同じ国で時差があるんだ。信じられない。
『おい…なあ、依紗聞いてる?』
「聞いてる…。」
ため息色した通い慣れた道。大人になってからもう何年住み続けたかわからないアパートの鍵を開ける。そろそろ住みかえようか、なんて思ってどれくらい経ってしまったのだろう。
『…お疲れさま、いま帰ってきたの?』
「ありがと。うん、今日はちょっと遅くなっちゃって。」
靴を脱いで、鞄を床に置く。電話の向こうの栄治は息が弾んでいる。走り込みでもしているのだろうか、朝からご苦労様だな。…ん?朝だよな?ダメだな、何年経っても一向に慣れない。時差どのくらいだっけ、14時間だった?
「…切るね。お風呂入らなきゃ。」
『待って。』
「なに?」
「少し話したい。」
栄治がドアを開けて、こちらを見ていた。ちょっと待って、怖い。でかいから余計に怖い。あれ、なんで、私鍵かけたよね…。
「…チェーンもかけろ。」
「え、あ、はい。」
「合鍵くれただろ。」
「えっと…そうだっけ。」
「他には。」
「え?」
「ほかに、質問。」
「…ごめん、ちょっと追いつけない。」
栄治は靴を脱いでこちらに近付いてくると、おもむろに抱き締める。汗ばんだ体がいつもより熱いこと以外、Tシャツ越しに感じるその感触に変わりはない。
「明日、情報がリリース。明後日、記者会見。」
「うん。」
「今日、帰国した。」
「…そうなんだ、おかえり。」
「ただいま。時差ぼけしてるんだぁ。」
「あはは…。」
「依紗、すき。結婚して。」
「…いいよ。」
今までで1番情緒のかけらもないプロポーズだったけど、自然とこたえが口から出た。
ドラマみたいな、おしゃれな高級ホテルの最上階にあるレストランでされるようなプロポーズなんか要らない。こいつにそれは似合わない。たんぽぽでも渡されるようなのでいいんだ。
…いつもの栄治が、飾らないあなたが、すき。
「………あれ。」
「なによ。」
「またはぐらかされるかと思った。」
「だって、日本にいるんでしょ。」
「そうだけど。…なんも用意してねって!」
「いいよ別に…。」
「花束とか指輪とか!」
「似合わないことしなぐでいって!」
「今までの方がよっぽど頑張ってたよな俺…。」
毎回一輪だけ何かしら花を持って来ていたのは確かだ。今回は何もない。持っていたのは、傷だらけのスーツケースだけ。
「いいって。栄治の笑顔があれば。」
そう言ってやると、へら、と笑って顔を近づけてくる。それを、目を閉じて受け入れた。
心の中に永遠なる花を咲かそう。
あなたと。
イエローベリーは言祝ぐ
ありがとう、過ぎた去った日々。
これからの日々が
どうか幸せでありますように。
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夢書き仲間企画より。
以下楽曲よりフレーズをお借りしております。
(敬称略)
花ーMemento-Moriー/Mr.Children
作詞:桜井和寿