海南
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力強く真っ直ぐなトランペット。
青空へ突き抜けていくように飛んでいく音。
まるであの飛行機雲みたいだな。
そう思って発信源を探したらその主と目があったんだ。
鶴のようにぴんと真っ直ぐに伸びた背筋と、
どこまでも見通すような、瞳。
恋に落ちる音が聞こえた。
「信長?」
清田は神の声に振り返る。敬愛してやまないその先輩は汗だくで、しかし屈託のない笑顔で片手をあげる。
「じ、神さん。」
「どうしたの。」
首を傾げた神の声に、トランペットの主が2人に気付く。神の姿を認めると、手を振った。
「…あれ、徳重だ。おつかれ!」
「おつかれさま!神くん…と、あ、噂の信長くん?」
「え?」
「クラスメイト。よく話するんだけど、信長のことで盛り上がってて。」
「なんすかそれ…。」
神がクラスメイトに歩み寄るのに清田もついて行った。徳重、と呼ばれた女子生徒はふわりと微笑む。
「時間いいの?」
「すぐ行くよ。」
「はじめまして、信長くん。」
「は、はじめまして…。」
「あはは、なに信長、照れてるの?」
「緊張しますって!何話したんすか…!?」
頬を染めて神に詰め寄る清田を見て依紗は笑った。鈴を転がしたような涼やかな声が清田の鼓膜をくすぐる。
「すごくバスケに真っ直ぐで情熱的だって。あと、…ふふ。」
「なんすか!?」
「牧先輩への愛が重いって。」
「じ〜ん〜さぁ〜ん…!」
「本当のことだろ。」
事もなげに言う神に清田は脱力する。その様子に依紗は尚も笑った。
「話の通りだね。癒される。」
「ええー…。」
「徳重はどうして外で?」
「今日はそういう日なの。音を飛ばす感覚を掴む練習。」
そう言って他の場所を指差す。金管楽器を持った部員があちこちに散らばっていた。
「木管は日に当たると割れるから室内。金管は関係ないから外。ひどいよねー、暑いよ。」
へえ、と2人が感嘆の声を上げる。それを見て依紗は笑うと、そろそろ行かないと、と戻るよう促す。
「そうだな。じゃ、また。」
「お、おつかれさまっす!」
「おつかれさま。頑張ってね。」
出会いはそんなありきたりなものだった。
でも、それでも、俺は惹かれてしまって。
相手にされないのを覚悟で追い掛けたんだ。
夢中になった。
バスケと同じくらい。
徳重さんの姿が瞼に焼き付いて離れない。
「好きです、付き合って下さい。」
部活終わりが同じくらいだったので、駅まで一緒に帰る約束をするようになった。彼の話はいつもバスケか部活の先輩か犬の話だったけど、どれも楽しかった。
そんな彼の唐突な言葉に戸惑った。
彼のことは、友達の後輩、くらいにしか思っていなかったから。
「でも私、」
「いいんです、これから知っていってもらえたら。だから俺のこと、…見ていて下さい。それだけでいいんで。」
真っ直ぐだった。
バスケへの情熱を思わせるようなその目と言葉が私を駆け抜けていく。
神くんや牧先輩たちの後について歩く彼は可愛らしいと思った。性別とか、そんなものは関係ない存在で。…私の事なんて、眼中にないだろうなって、思っていた。だから、好きだなんて言われてもいまいちピンとこなかった。
本当に、私でいいの?
「…はい。よろしくお願いします。」
「やっぱりダメかぁー!でも、あの…あ?え?」
「信長くんの彼女に、してもらおうかな。」
「……うそ、まじっすか?」
「嘘でそんなこと言わないよ。」
目を白黒させる清田に、依紗は微笑んだ。ああ、やっぱり可愛いな。でもきっとそんな言葉は嬉しくないんだろうな。そんなことを思いながら、目の前の後輩を見上げる。神と並ぶと小柄に見えるが、実際は自分よりうんと背が高い。
「ありがとう、好きになってくれて。」
「…一目惚れだったんす。」
「え?」
「トランペット吹いてる姿がかっこよくて。あと、音がすごくまっすぐで。音楽が好きなんだなっていうのが分かりました。」
「上手く言えないんですけど、こんな人の隣にいたいって、思ったんです!」
顔を真っ赤にして俯き加減で捲し立てる清田に、依紗もつられて頬を染めた。
「そ、そんな大層なものじゃないよ…!」
「そんなことねえって!俺にはそう見えたんだ!」
「そんなこと言ったら信長くんの方がうんとかっこいいよ!バスケへの熱い気持ちが伝わってくるし!」
「徳重さんの方がすげえって!」
「それに、折れずに頑張ってるじゃん!」
「え?は?」
依紗の言葉に清田が瞠目するが、依紗は構わず続ける。
「1年でベンチ入りってきっと僻みややっかみがあるだろうに、それに負けないの、すごいよ。」
「……それは」
「私は、そんなに強くいられないから。だから、私なんかが信長くんの彼女なんて」
「そんなことないです。…俺の好きな人のこと、なんか、なんて言わないで下さい。」
依紗の肩に手を置く。
「俺は徳重さんだから…楽器に真っ直ぐな依紗さんだから好きになったんです。」
「依紗さんなんか、じゃない。」
肩を引き寄せると、力強く抱き締めた。依紗は何度も目を瞬かせる。
「…俺のそばで笑っていて下さい。依紗さんが笑っててくれたら、絶対折れないから。」
一層込められた力に依紗は目を閉じて背中に手を回す。うん、と頷いてその力に委ねた。
シンビジウム
バスケに対する誠実さと気取らない心が
私にはとても美しく思えたの。
それと、心の底に宿る、優しさと気高さ。
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リクエストありがとうございました!
落ち着いていて、清田のことを可愛いなって思っている先輩彼女、ということで!
手癖でついこういう話になってしまいました…いかがでしょうか…!