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なんて不確かな約束なんだ、と思っていた。
空が高くなり、雲の様子が変わり始めた秋のことだった。父親の転勤が決まり、長く過ごした愛知を離れることになると言われ、依紗は自分の心が、ずん、と重くなるのを感じた。同時に、虚脱感のようなものも。
「神奈川の高校を受験しなきゃいけない。」
そうなんだ、私、神奈川に行くのか。そう思いながら、幼なじみの顔が頭を掠める。大はなんて言うかな。神奈川かぁ、いいとこだぞ!なんて呑気なことでも言いやがったら殴ってやりたいな。想像の中で幼なじみの横っ面を叩くシミュレーションをしながら、依紗は電話の子機を取る。
呼び出し音が、まるで死刑宣告を待つ時計の針の音のようだった。
そのくらい、彼のことが好きなのだと、痛感させられた。
高校2年の夏休み、名古屋で大好きなアーティストのライブがあり、友人と大いに盛り上がった。ひたすら楽しい時間を過ごす。前乗りして友人と遊ぶ、泊めてもらってライブではしゃぐ、もう一晩泊めてもらって余韻を楽しみつつ徹夜で語り明かした。
「ドームで野球も観たかったなぁ〜。」
「それは遠慮する。」
「だよね、あはは!」
名古屋駅の金時計。人の往来が激しく、待ち合わせもままならないこの場所も、すっかり他人行儀だ。
「ここでいいよ。」
「わかった。…寂しいなぁ。」
「また来るし、なんなら来てよ!いいとこいっぱいあるからさ!」
「うん!」
バイバイ、またね。まるっきり見通しの立たない、またね、が寂しくて、振り返ることが出来なかった。
みどりの窓口の行列にため息をつく。ようやっと切符を買って、お土産を選び、なんとなく銀時計を見遣った時だった。明らかに部活の遠征帰りの集団がいる。やたら背が高い。揃いのジャージには、愛和学院、の文字。
(…大も、愛和行ったんだったな。)
目を細めて、その集団を眺める。別に探したわけではない。しかし導かれるように1人の背中をじっと見つめていた。
その背中が振り返る。
「……依紗だがん。」
そばにいた他の部員に一言かけるや否や集団から抜け出して駆け寄ってくる諸星に、依紗は立ち尽くしたまま、ただただ目を瞬かせた。
「なんで、本物?」
「ほ、ほんもの…。久々に聞いたそれ。」
「なにが?」
「名古屋弁。」
「え、出た?」
「出た。懐かしいな。何してるの?」
「神奈川に遠征いってきたとこ。」
「そうなんだ。私、ライブみに来てたとこ。」
「…もう、帰るのか。」
「うん。」
諸星!と呼ばれる声に、はい!と返事をして、もう一度依紗の方を見る。今度は、肩に手を置いて。
「俺、依紗のこと忘れたことないよ。ずっと、」
「大、私も、」
諸星!ともう一度呼ばれて、諸星は舌打ちをした。その様子に依紗は少し驚いたが、早く行きなよ、と促す。
「連絡するから、必ずするから!」
「私も!」
またね、と互いに手を振って背を向ける。依紗は改札へ、諸星は部員の元へ、それぞれの行くべき方向へ踏み出す。
今は別々の方に向かっていても、辿り着く先がいつか重なることを祈って。
必ず来る、またね、に心を躍らせながら。
Catch you later!!
(後でお前を捕まえてやる、みたいだな。)
(…またね、だよ。)
(別に間違ってねえだろ。)
(それって、)