翔陽
名前変換
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「徳重!おい、徳重!」
「!」
名前を呼ばれて依紗は目を開ける。目に飛び込んできた空は高く澄み渡っていて、時折吹き抜ける風は心地よく、秋を感じさせた。辺りを見回すと、どうやらグラウンドの脇に横になっているようだということがわかる。
慌てて体を起こすと、こめかみの辺りに鈍痛が走る。
「ぐおお…いてえ…。」
「どうしてもっと可愛らしい声が出ないんだ。」
「藤真!?」
なんで、と言おうとしたがやはり痛い。背中に手が回って来て体を支えられるのがわかる。
「お前、グラウンド走ってたろ。」
「あ、そうだ。うん、走ってた。」
「したら野球部のファウルボールに直撃。」
「うげ、だからか、クッソ痛い。」
「クソとか言うなよ。」
一際強い風が吹く。その時、舞い上がった藤真の髪の間に縫うほどの傷跡を見つけた。
「藤真、それ…」
「あ?」
依紗が藤真の眉尻よりやや上を指差すと、気づいた藤真が忌々しそうに「あー」と声を発する。
「俺の事はいいんだよ、今は徳重が怪我人。」
保健室の方から保健医と陸上部員が走ってくるのが見える。依紗は笑顔で手を振った。
「ったく……頼むからあんまり心配させないでくれ。」
「そうじゃん、藤真は何してんの!?練習は?」
「休憩中。外に出てみたら丁度お前にボールが当たってぶっ倒れた所だったから、」
来ちゃった、と首を傾げて可愛く言う。
(見た目はほんっっっとに可愛いくせに中身これだもんな…!)
「あとさ、」
ニヤリと笑った藤真が依紗の胸元を指差して言った。
「そのTシャツ、ブラ透けてる。」
その言葉に思わず胸を隠す。
「なんてな、ウッソー。」
(な、な、な、な)
「なんだ貴様はーーー!!!」
走って来た保健医と陸上部員の友人が目を丸くして顔を見合わせている。藤真は腹を抱えて笑っていた。
「そんだけ元気ありゃ大丈夫だな、あー腹いてえ。貴様って…武士かよ…はは。」
ヒーヒー言いながらふと何かに気付く。
「ボール!」
そう言って鋭く指をさすとその場にいた全員がそちらに振り向いた、が
(ん!?)
依紗はこめかみに何か温もりを感じた。
慌てて振り返ると藤真の顔が近い。
「気を付けろよ、本当に。」
笑顔でそう囁き、藤真は立ち上がる。
すみません、気のせいでした。と先生と友人に謝って体育館に戻っていった。
キスをされた、と思い至るのにそう時間はかからなかった。心臓が早鐘のように鳴り、うるさくてかなわない。
「徳重さん?大丈夫?」
顔が赤いわよ、と保健医に言われ我に返る。
(だって、まさかそあんなことされるなんて思ってない。)
「目眩がする…。」
「あら大変、少し休んだら?」
友人もそうしなよ、と言って体を支え、立ち上がらせてくれる。
(そうだ、これはボールがあたったせい…そうなんだ。)
依紗は、うん、と弱々しく返事をして保健室に向かって歩き出した。
キラーパス
(一体どういう意味だったか問い詰めてもいいのだろうか。)
(私は…私は、藤真が好きだけど。)