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まるで2人のひみつみたい。
諸星はクラスの人気者だ。爽やかで、快活で、いつも笑顔で。バスケもとっても上手だと聞くし、非の打ちどころがない。
そんな彼と隣の席になって、言葉を交わすことが増えた。そこで知ったことなのだけど、勉強は苦手らしい。あと、忘れ物もよくする。それに加えて、友達に教科書を貸して、返してもらうのを忘れてしまって、見せてあげることはよくあること。…それは返しに来ない方が悪いんじゃないかと思うのだけど、決してそれを責めたりしないのだ。私だったら激怒だね…。
「やったわ…。」
「なに、今度は何を忘れたの。」
「辞書返してもらうの忘れた。」
「嘘でしょ…。」
「HR長くね?早く終わってくんねーかな…。」
「おい諸星、何喋ってんだ。」
「先生の話長くないかって徳重と話してました。」
「ちょっと、巻き込まないでくれる?」
「そんなことないって言うから、抗議してました。」
「微妙なフォローもやめてよね…。」
「ぶっちゃけ友達に辞書返してもらいに行きたいんで、そろそろキリつけてもらっていいっすか!」
「お前なぁ…。」
笑いが起きる。これが人徳なんだろうなぁ。担任は本当にキリをつけると教室を出ていった。なんだ、いらん話をしてたんかい。
諸星は教室を出て行くと、すぐに戻って来た。電子辞書を持っている。手にすっぽり収まっていて、手が大きいんだなぁ、なんて思ったり。
「実際先生の話長くね?」
「長いよ。」
「だよなぁ。あの時間で単語テストの勉強出来るって。」
「してないの?」
「してない。」
「あっはは。」
単語帳を開いてぶつぶつと唱え始めるのがなんとも微笑ましい。でもね。
「その次のページからだよ。」
「げっ。」
そんな日々を繰り返しているうちに、自然と諸星に惹かれていくのを感じた。ぼんやりと、好きだな、なんて。でも、手を繋ぐとかキスをするとか、そういうビジョンが浮かんで来なかった。アイドルに対するそれと同じなんだろうか。
「どしたの、徳重。」
「んー…。今日も話長いね。」
「だな。」
でも、笑顔を向けられるたびに胸がきゅんと締め付けられるような感覚になるの。これが恋じゃなきゃなんなんだろう。求心でも買いに行った方が良いのかな。
「ねえ、」
諸星は古文の教科書を口の横に立て、私の耳に寄せようとするので、体をそちらに寄せてやる。
「徳重のこと好きなんだけど、付き合わねえ?」
……。
「はあ?」
少し間があって、素っ頓狂な声をあげてしまう。担任がこちらに怪訝な目を向けて、なんだ、と首を傾げる。
「えっと、その…」
「おいおい、そんな大きな声上げることねーだろ。」
「ご、ごめん。」
「なんだ、また諸星か。」
「すんません、それ、読み方忘れちゃってこっそり聞こうと思ったんすけど…バレちゃった。へへ。」
「それって、これか。」
担任は、知立、の文字を指差す。
「そっす。ち…ち…なんだっけ。」
「ちりゅう、だよ…。」
「そーだそーだ。」
私は赤くなった顔を誤魔化すように俯いて、小声で教えてあげると、諸星は相変わらず朗らかに笑った。担任は呆れている。
「お前なぁ。」
「恥ずかしいからこっそり聞いたんすよ、頼むよ徳重〜。」
「ご、ごめん…。」
「あはは!冗談だって。」
教室は笑い声に包まれていたが、私はそれどころではなかった。ちら、と諸星の方を見たら目が合い、あちらが手を顔の前に立てて、すまん、と苦笑いした。なんでアンタが謝るのよ…。
やがて担任がまた脱線し始めたところで、もう一度諸星の方を見た。ややあって諸星がそれに気づく。穏やかに微笑んで首を傾げたので、口だけで伝える。
す、き。
通じたのか、みるみるうちに彼の顔が赤くなっていく。手の甲で口元を押さえると、ノートに何か書いて、破く。一つ折ると、こちらに寄越した。
今日いっしょに帰ろう。
私はひとつ頷いて、走り書きのメモをペンケースに大事にしまった。急いで書いたのを差し引いてもなかなかに字が雑だったが、悪くない。騒めく教室は、まるで遠くの出来事のようだった。
諸星の笑い声だけが鮮明だ。
ひとひらの約束
そのひとつひとつを重ねて
かけがえのない時間にしていきたい。
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Twitterにてリクエスト頂いたものです。
ありがとうございました!