湘北
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その日は確かに晴れていた。
じりじりと暑い日が続いていて、一緒に出掛けるにしても太陽から逃れるような場所しか思い浮かばない。たとえば、
「水族館?」
「涼しそうじゃない?」
「確かになぁ。」
三井くんは携帯をすいすいと操作して検索を始める。
「ここ良さげじゃね?」
「本当だ!イルカショーも面白そうだね、プロジェクションマッピングとのコラボだって。」
「お、いいじゃん。」
声を弾ませる私につられてか、三井くんも口角を上げる。それが嬉しくて、私は一層心を躍らせた。
そう決めてから何日経ったか。彼はバスケに忙しいのであまり予定が合わない。私は私でバイトがあるし。文句を言うつもりもないしそれでいいとも思ってる、バスケをしている彼を好きになった私の負けだ。
だからこそ会えた日はすごく嬉しいし、帰る時間が近付くとそれはそれは寂しくて。
「外が見えないと時間がわからなくなっちゃうね。」
「そうだな。今何時だ…」
腕時計を見る三井くんに、少し胸が締めつけられる。その仕草がすごく素敵だと思うのと、終わりが近いことの寂しさで。
私も彼の腕時計を覗き込んで、その時間に顔を見合わせる。
「メシ食って帰るか。」
私は笑って頷いた。上手に笑えたかは自信がないのだけど、三井くんも笑ってくれたから、多分大丈夫。
「…マジか。」
食事を済ませて歩き出すと、雨粒が掠めるのを感じた。みるみるうちに雨脚が強くなる。悠長に歩いていることは出来ず、三井くんのが私の手を取って走り出した。バス停に駆け込む。屋根があるのが救いだった。時刻表を見ると、出たばかりくらい。しばし沈黙が降り注ぐ。
そんななか、三井くんがくしゃみをした。慌ててハンドタオルを出して、頬を伝う雨水を拭き取る。
「いいよ、俺は。自分拭けって。」
「でも、くしゃみしてる。」
「バカだから風邪ひかねー。」
「…夏風邪はバカがひくと聞くけど。」
「ああ?」
眉間にしわを寄せてこちらを見下ろす。何故だか笑いがこみ上げてきた。
「笑うなよ。」
「ごめん。」
バス、来ないな。そんなことを思いながら身ぶるいをすると、三井くんは小さく口を開いた。
「…俺ん家なら歩いて行けるけど。」
「え?」
「このままじゃ、依紗が風邪ひくだろ。…嫌がるようなことはしねえ。」
「…あ、えっと。」
「明日バイトは。」
「休み…。」
「そんなら、今日は泊まっていけるだろ。この調子じゃいつ止むかわかんねーし…。」
躊躇いながら言う三井くんは繋いでいた手を少し緩めた。私はそれを強く握り返す。
「うん…じゃあ。」
初めて行くなぁ、と笑って見せたら、少し驚いた三井くんはすぐに微笑んで、その手を優しく握り返した。
雨は相変わらずアスファルトを激しく叩いて少し怖いけど、駆け抜けられる気がする。
彼となら。
驟雨を駆ける
雨の中2人で笑いながら走る様は滑稽で。
でも幸せだとおもったの。
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Twitterにてリクエスト頂いたものです。
・大学生
・彼氏の部屋に初めて訪問
・「今日泊まっていけるんだろ?」
ありがとうございました!