大阪
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
こういう時は、何も聞かなくて良い。
ぼんやり雑誌を読んでいたら部屋のドアが開いた。そこに現れたのは。
「み、実理!?ちょっと、ノックくらい…ってかお母さん!!なんで勝手に通してんの!!」
「めちゃくちゃ元気やな…。」
ヘアバンドで前髪を上げて、長い後ろ髪をゆるくおだんごみたいに結った実理が現れた。鏡台の前で化粧するお母さんみたいやわ、と笑いそうになるのをぐっと堪える。
参考書や教科書、夏休みの課題などが散乱したテーブルから逃避するように眺めていた雑誌を見られ、慌てて、もたれていたベッドの下に隠す。実理は溜息をつくと私の隣に腰を下ろしてベッドに肘をつく。
「エロ本かいな。」
「ちゃうわ!」
「じゃあ見せてみ。」
「それより、実理…えっと、おつかれさま。」
「おおきに。」
インターハイの結果は連絡をもらっていたから知ってる。烈も実理もあんなに頑張っていたのに、という想いが溢れてその日の夜は泣いてしまった。
「…近ない?」
「いつももっと近いやろ。こんな薄布さっさととっぱら」
「うるさいだまれ舌引っこ抜くで。」
「おおこわ。」
幼馴染みという関係を越えたのは少し前のこと。まだ距離を詰められると照れてしまってかなわない。もっとも、昔は平気だったのだけど。
「雑誌、何読んでてん。」
テーブルの惨状を横目で見ながら尚も詰め寄る実理に観念すると、私は隠した雑誌を取り出す。実理がそれを取り上げると開いて眺めた。私は肩にもたれかかって一緒に眺める。地元のレジャー雑誌だ。花火だとかお祭りだとか、浮ついた催し物の羅列に気分だけ味わっていた。私は受験生だからそんなこと言ってられないのだ。
「…お土産は。」
「さっきお前のオカンに渡してきた。」
「もみじまんじゅう?」
「ちゃう。重いからやめた。」
「何にしてん。」
「レモスコ。」
「…れもすこぉ?」
「向こうのお好み焼き屋に置いてあってん、それかけたら美味くて。」
「………麺入りの、食べたんだ。」
「おお。」
「非県民!!いや、非府民!!」
「将棋するじいさんみたいやな。」
「なんやお前…なんで麺入りなんて食ってんねん…邪道や…!」
「依紗みたいのがいるから戦争なんて起こるんやで。美味いもんは美味いで認め合えばええやんけ。はい幸せはい平和〜。」
「腹立つ!!」
実理は雑誌を床に置き、いきりたつ私を宥めるように両手で頭をかき混ぜるように撫でる。そして頬に手をやり、口付ける。
「そない怒ることないやんけ。」
「ぐ…」
「勉強し過ぎて頭カチカチなっとんやないかぁ。」
「うるさい!もー!」
怒りではなく、照れて赤くなる顔を誤魔化すように手の甲で口元を押さえると、実理が少し違った笑みを浮かべてこちらを覗き込む。
「…その表情ええな。」
「何言っ」
「やりたなる。でも今はお前のオカンおるから無理や、やめ。」
「もとよりその上じゃ!離れえ!」
「もう少し。」
ぎゅう、と抱き締められる。左耳のピアスが目に入った。今日は赤なんだ、なんて考えながら背中に手を回す。
「もう少し、このまま。」
依紗、と微かに呟く。なんだか少し切ない声音になったのが気になるけど、多分、今は聞いちゃいけないんだ。自分の中でまだ消化しきれない気持ちがあるのかな、なんてぼんやり思ったりもして。
「…ね、花火行きたい。」
「…あ?」
「さっきの雑誌に載っててん。実理と花火行きたい。」
「ええで。」
「浴衣着たいなぁ。」
「…………。」
「…なんか想像したやろ。」
「まさか。」
そう言いながら、さっきから耳や首筋に唇を寄せてくるのがどうも気になるのだけど。
「ねえ、やめてったら。」
「… 依紗、」
「なに?」
「声、我慢できひん?」
「何言っ」
「依紗に触りたくなった。あかん、下の人が元気に、」
そう言って服の下に手を入れようとする。待て待て待て、お母さんがいるんやってほんまに!!出掛ける予定もあらへんねん!!
「我慢しろ!!」
「もう無理や。」
無駄にでかい体が覆い被されば、私になす術はなく。指先から溢れる熱に翻弄されるしかないのが悔しい。ただ、嬉しそうに笑う実理を見ているとそれさえもどうでも良くなってしまうの。
クレッシェンド
何も聞かなくてもわかるから。
何も聞かずにそばにいるよ。
その度想いはどんどん強くなる。
-----------
Twitterにてリクエスト頂いたものです。
・肩にもたれかかる
・触れたくなった
・もう少しこのまま
ありがとうございました!