大阪
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時折、あなたの言葉が欲しくなる。
そんなものなくたって、分かっているのに。
土曜の夜は長い。早めの夕食、早めの入浴、その後は一週間頑張った自分へのご褒美と、また一週間頑張る自分を鼓舞するためのボーナスタイムとしている。少し良いヘアオイルに、しっとりするフェイスパック、お気に入りの香りのボディクリームでメンテナンス。テレビはつけないで照明はやや光を落とし、のんびりマッサージしながら大好きな音楽を聴く。その後は雑誌を読んでみたり本を読んでみたり。
これが、効く!
「よお頑張った私。また頑張れ私。」
流れてくる音楽に合わせて鼻歌を歌う。時刻は0時を回ったところで携帯電話が唸り声を上げる。なんやねん、台無しやな。
「もしも」
『悪いんやけど泊めてくれへんか。』
名乗りもせず要件のみを短く告げるその声はよく知ったそれで。失礼にも程があると思いながらも、些か気分の良い私は
「別にええよ。」
快諾してしまう。
『ほな開けて。』
「………はあ?」
『いまドアの前におってん。』
「うっわ、図々しない?」
悪態をつきながらも玄関の鍵を開けた。烈は、おおきに、とか言いながら大きな体を差し込んでくる。
「酒くさ…。」
「すまん。」
「…………は?」
「は?」
素直に謝られて、思わず変な声を出してしまった。烈が?謝る?は?なんて?烈は烈で怪訝な顔をしていた。
ふら、と足元が覚束ないなんていうのも初めて見る。
「今日…あ、結婚式やっけ。」
「おお、矢嶋…高校のバスケ部の。」
「ああ…。」
「なんや。」
その面子じゃお酒の進みもえげつなかろうよ。納得やわ。
「何時から飲んでん。」
「披露宴からやから11時半か?」
「そこからずっと?」
「ずっとは言いすぎやろ。」
「ほんまに?」
「……ほぼ。」
「吐くならトイレ行ってよ。」
「もう吐いてきた。出すもんない。」
「うっわ。」
私は烈を洗面所に押し込み、棚から使い捨ての歯ブラシと、タオルを渡す。
「もう酒なのかゲロなのかわからん臭さや。お風呂入り。」
「傷付くわ。」
「………は?」
「さっきからなんやねん。」
いやいやいや、烈そんなこと普段言わんやん。そらおかしな声出るわ。
「おおきに。」
「………うん。」
あぶない。また、は?とか言うとこやった。
「依紗。」
洗面所からのそのそとリビングにやってきた烈はスーツのままだ。なんやねん、はよ風呂入ってや。あーもう、上着はソファやなくてハンガーにかけえよ、しわになるで。
「なに?お風呂は?」
「今日聞かれてん。」
私の話聞けや。
「依紗のどこが好きかって。」
は?
「え、は?」
「答えられへんかったわ。」
は?え?喧嘩売ってんのこいつ?
「後でゆっくり聞くからお風呂入ってきて。私気分いいから今の聞かんかったことにしたるで、な?」
しかし烈はずかずかと私の前にしゃがむ。まじまじと、こちらを見て、手を伸ばす。
「……髪。」
「え?」
さら、と伸ばしてきた手で私の髪を梳く。
「いい香りがする。落ち着く。」
そう言って鼻先でくすぐるように顔を埋める。
「ちょっと、なにすん」
「耳。よう音を拾う。何も聞き逃さへん賢い耳や。」
そう言って唇で軽く食む。そして、わざと音を立てて舐め上げる。
「や…っ、ええかげんに」
「いい反応もしてくれるし。」
くつくつと笑いながら首筋に口付ける。
「首。ここもなかなか、」
「ホンマどつくで!?」
「…ええ声出すくせに、凄むとなかなかドスの効いた音を出す、喉。」
「ちょっと…っ」
喉を、下から上に舌を這わせる。生温かくてくすぐったい。
「それから、」
抗議のために開いた口に易々と舌を侵入させ、いいようにうごめく。やがて、舌を絡めとられる。音を立てて吸い上げ、離れていく。
「口。好きなんやけど…ようもまあ酷い言葉が出るもんや。」
「誰のせいやねん!」
「あと、俺を煽るいい声も。」
そう言って、煩わしそうにネクタイを緩める。
「ちょっと、待っ」
「待てへん、」
「したい。」
ネクタイを首から抜き、腕時計を外し、どちらも床に放る。そのままなす術もなく組み敷かれ、もう一度口付けられる。
「歯は磨いたで。」
「そういう問題ちゃうわ。」
「もうお前も我慢出来へんやろ。」
「それは…」
言い当てられ、こたえを濁す。正直ここまでされると体が疼いてしかたがない。我が身のはしたなさに嫌気が差す。
「折角クリーム塗ったのに…」
「なんや、まっぺん塗ったるからええやろ。」
「それもそういう問題ちゃうわ!」
「どういう問題なんかちゃんと答えられたらやめたるわ。はよ考え。」
そんな風に意地の悪いことをいって笑いながら髪を梳くその優しい手つきに、私の思考は完全に停止してしまう。
「依紗、…愛してる。」
実に厄介な男を愛してしまった。
言葉の限界を知っているか
それを越えるために、
私たちは愛し慈しみ合うのかも知れない。