湘北
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卒業式が終わった。隣の柔道場では青田はじめ三年生から後輩へなにやら言葉を贈っているようだった。どの部も同じだな、なんて思いながら私も泣いて縋り付く後輩たちを宥める。使い込まれた校章、華やかに仕上げられたブーケのような徽章、あげられるものはねだられるままあげてしまった。
後輩たちから渡された花束を抱えて格技場を出る。体育館に併設されたこの場所は案外と死角が多く、告白の声が聞こえてきて笑ってしまう。みんな必死だな、なんて思いながら体育館を眺めれば、赤木や木暮、三井が後輩たちと何かやりとりしているのが見えた。
あ、あの子。赤木の妹…晴子ちゃんだっけ。青田は彼女に第二ボタンでもあげるのかな、べた惚れなんだよなぁ、微笑ましいよ。
…羨ましいな。
「徳重!」
ふふ、と笑いながら校門に向かって歩いていくと、後ろから呼び止められて振り返る。
「帰るのか。」
「お疲れ青田。うん、まあ、そんなとこ。」
最後はあんただけ。あんたを、待ってた。
「ははっ、見事にボタンなくなってる。女の子?」
「ふん、だったらどんだけよかったことか。」
「想像つくなー。でも第二ボタンは赤木の妹にあげるんでしょ、まだ体育館にいたよ。」
自分で言って、つき、と痛む胸。やっぱりな、と思いながら笑って誤魔化す。あとはあんたのことを終わらせたら私の高校生活は終わる。はれて卒業だ。
「…まさか、第二ボタンまで野郎に」
「そんなわけないだろう!死守だ!」
全国制覇だ、みたいな勢いで言われても。声でかいんだよあんた。
つかつかとこちらに近付いてきて、大きな握り拳をこちらに突き出す。私はその拳に自分の拳を打ち付ける。
「健闘を祈る。」
「馬鹿者、違う。」
「は?」
青田の反対の手が私の手を取り、手を開かせる。青田の拳が開かれると、私の手のひらにボタンが、ころり、と落ちてくる。それを、穴があくほど見つめる。
「…第二ボタンは心臓の一番近くにあるという。意中の人間に第二ボタンをあげるとかもらうとかのルーツはそこにあるとかなんとか。」
「…へえ。」
「俺の心臓を、徳重に預けたい。」
「…武士じゃん。」
「そうだろう。俺は柔道、お前は剣道、同じ武道を嗜む者だ。」
「全然嬉しくない…。」
ちらりと青田を見上げれば、顔が真っ赤で笑えてきてしまう。
「っはは…なんなの、もう…。」
「うるさい、受け取るのか受け取らないのかどっちなんだ。」
「わかった、預かる。青田の命、私が預かる。」
「お前もなかなか武士だな。」
「乗ってあげたんじゃん。」
でも困ったな。
「私はあげられるもの持ってないよ、花も校章もあげちゃった。」
「いい。こっちをもらう。」
身を屈めて不器用な唇が重なる。がち、と歯が当たった。これは痛い。
「った…柔道は一級品なのに。」
「すまん。」
めちゃくちゃにばつの悪そうな顔をして目を逸らす彼は、私のよく知る、私が好きになった、青田という男。
不器用だけど真っ直ぐで、極上の男。
白いアザレア
バスケ部に見られて散々からかわれて顔を真っ赤にする青田も、好きなんだよな。
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ワンライ参加作品
『三年生から後輩へ』
白いアザレアの花言葉は
「あなたに愛されて幸せ」