大阪
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ジングルベル、ジングルベル。
大人になったらそんなもの全く関係なくなった。まだ社会人2年目なのに。もっと風情とかさ、なんで忘れちゃったかなあ、私!どこに置いてきちゃったのよ!
荒れ気味のメンタルはすれ違うカップルを煩わしく感じるどころか、無だ、無。何も感じない。世界は灰色だ。疲れた。疲れたぞーー!!私は疲れた!!
「ただいま!帰った!誰もいないけど!」
やや乱暴に鍵をかけ、どたどたと歩く。下の階の人、ごめんなさい。あ、いないか。だってほら、確か大学生の男の子が住んでる。イケメンだもん、彼女とパヤパヤフゥー!なんでしょ。いいねぇ、若いよねぇ。
「…何荒れとんねん。」
「ギャー!」
誰もいないと思ったリビングに、烈が居た。え、ちょっと待って、なんでおんの。
「合鍵寄越したのお前やろ。」
「…そ、や。」
「アホ面。」
「やかましわ。連絡くらい」
「したわ。出ん方が悪い。」
「…ほんまや、ごめん。」
「飯食ったか。」
「まだ。」
烈は立ち上がると、風呂入って来い、と私の背中をトンと軽く叩いた。そのまま手狭なキッチンに立つ。こいつ、料理とか出来るん?否、出来んはずや。
「壊さんとってよ。」
「俺を誰やと思っとる。」
「キッチンキラー。」
「なんやねんそれ。」
早よ行け、と手で払う仕草を見せる。犬と違うのにそんな扱いひどない?ええけど…。
「…うそ、なにこれ。」
風呂から出て来たら、チキンとかケーキとか、小さなテーブルがすっごくクリスマスに仕立て上げられていた。なに、なんなの、すっごく気持ち悪い。
そして、なに、この、グラタン…
「見て分からんのか。」
「いや、わかるけど。烈先生が作ったんですか。」
「…悪いか。」
「全然、え、全然どころかめっちゃ嬉しいんやけど!めっちゃ食べたかった!食べてもええ!?」
「あかんもん出さんわ。」
わからん、もうなんかよくわからんけど、合掌して、早速グラタンを口に入れる。熱い。むっちゃ熱い、火傷する。
「死ぬ!!!」
「死ぬかアホ。」
「嬉しくて死ぬ!熱い!」
「面倒くさいテンションやな。」
そうは言ってても烈は少し嬉しそう。なんなの、料理出来るなんて聞いてない。
「ひとり暮らししとったら、最低限出来るやろ。」
「女子力たっか。」
「女子力ちゃうわ、生活力や。」
「仰る通り…。」
ほんまにな、料理出来るのを女子力とか言う社会、くそくらえ!関係ないやろ、生活力や!かく言う私は生活力低過ぎなんやけど。
「あのな、依紗。」
烈はフォークを置いてテーブルに頬杖をつき、こちらを真っ直ぐ見ていた。
「なんやよくわからんけど、しんどいならしんどいって言えよ。言われなわからん。」
怒ってるのではなく、なんだか少し切ないようなトーンだった。どないしてん、らしくないやろ、それ。
「依紗のことなんでも分かる、なんて俺はよう言わん。でも、分かりたいねん。」
「なに、言うてんの。じゅうぶん、」
「じゃあなんでそない泣きそうな顔してんねや。」
違うんよ、これはね、嬉しいからなの。
…ただ、正直。
師走、心身ともに消耗が激しかった。思いの外疲れた。烈にも会えん日多くてしんどかった。誘ってくれるのに、断るの、泣くほど辛かった。
黙ってしまった私の頬に、烈の手が添えられた。
「…言えよ、ちゃんと。」
「え?」
「言われへんことは言わんでもええけど、俺にまで我慢すること、ないやろ。」
ゆるゆると手が引っ込む。そんな優しい声出せるんか、出し惜しみすんな。ずるい。
「…敵は身内にあり。」
「おお。」
「でも外も敵ばっかりや。」
「四面楚歌やないか。」
「孤立無援や。」
「アホ、俺は味方や。」
烈は呆れたように笑う。
「よう頑張ったな、お疲れさん。」
その言葉に、決壊した。なんなん、どうして大したことない言葉なのにこんなに嬉しいの。
「依紗、」
烈は隣に座り、肩に手を回した。その手を頭に乗せて、二度、ぽんぽんと撫でる。
「我慢せんでええ。」
こんなみっともないクリスマスない。もっと、キラキラと泡の弾けるシャンパン傾けてゲラゲラ笑いたいのに。
そう言ったら烈はくつくつと笑った。
「笑おうが泣こうが依紗と過ごすクリスマスならなんでもええんやけどな、俺は。」
メリークルシミマシタ!
(私だって、君とだったらたとえ火の中水の中。)