翔陽
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「なあ、俺と付き合わない?」
「なんで。」
自分でもなんでそんな提案をしたのかよく分からない。ただ、目の前のそいつは悩む間も無くそう返した。至極もっともな返事だ。なんで俺はそんなことを言ったのか。
こんな、今日、たった今、別の男に振られた女に。
「アイツと付き合ってるよりは楽しいと思うけど。」
「それを決めるのは私でしょ。」
「はたから見てたらお前、無理してんの丸分かりだったんだけど。」
「無理なんて、」
徳重はかぶりを振って小さく「そんなことない」と呟いた。夕暮れ時の空っぽの教室では、小さな呟きでも確かに響く。
「徳重の良さは、アイツの前では出てなかったぞ。」
「どういうことよ。」
「お前、結構甘えたいタチなんじゃねーの。」
徳重は、はぁ?と表情を歪めた。
「やめてよ、気持ち悪、」
「それ、そういうの、なんでそれ言うんだよ。気持ち悪くねーよ。」
「好きになったやつの腕に手を伸ばしたら気持ち悪いかな、とか、そんなことねーよ。」
俺は見てたよ。お前がアイツに触れようとしてやめるの、何度も。何でその指先に居るのが俺じゃねーんだよって、何度も、何度も思っていた。
「…最悪。」
そう言って、下を向いた。
「なんで見てんのよ、気持ち悪い。」
そう言って、泣いた。
「…私ばっかり好きなのかなって。そう思われるの癪で。」
「何だよ、それ。」
「分からなくてもいいわよ、でも嫌なのよ。」
「そうじゃねーよ。自分ばっかり好きなんじゃないかって思うような恋愛だったのかよ、って話。」
「別に…。」
そう言って、徳重は顔を背ける。
「お前の気持ちは分かるよ、余裕ないみたいでカッコ悪いとか思うんだろ。」
「なんでアンタに分かられてんのよ私。」
最悪、とまた呟いた。そう言うなよ、へこむだろ。
「愛されてんなーって思うような恋愛がいいに決まってんだろ。」
俺はそう言って自分のエナメルバッグを肩にかけ、徳重の鞄も持ち上げる。
「俺はそう言う風になりたいんだけど、お前は?」
そう言って鞄を差し出すと、徳重は涙目のまま少し笑った。
「いいね、それ。」
徳重は「いいこと言うんじゃん、顔のわりに。」と呟いて鞄を受け取り、教室を出て行こうとする。顔のことは余計なお世話じゃい。
出て行く寸前でこちらを振り返り、口を開いた。
「でも、高野じゃないかな。」
それだけ言い残すと、片手を上げて帰っていった。
「俺じゃねぇかぁ〜。」
あーあ、振られた。この流れ、絶対付き合える展開だと思ったのになぁ。
勝利の方程式に、完敗
(でも、そのいたずらっぽい笑顔にグッとくる。)
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2019.11.20
SDワンライ企画
『顔のわりに…』投稿作品