海南
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一級建築士試験まで、あと一週間。
『お疲れ。少し待てるか?今そちらに向かっている。』
その声が私の活力。
「これなら問題ないんじゃないか。」
「そう…でしょうか。」
牧の住む部屋でテーブルを挟んで座り、彼は依紗の製図した設計図を眺め、目を細める。しかし正面に座る依紗は浮かない声で返事をするので、牧は用紙から顔を上げ、首を傾げる。
「何か気になることでもあるのか?俺で答えられることなら答えるが。」
「あ…いや、寧ろ指摘してもらえると助かるというか。」
そう言って依紗は牧の隣に座ると、もたれかかる。牧は少し困ったように笑って、小さく息を吐き、肩に手を回して抱き寄せる。
「見る限り、内容に問題はない。」
「そう…?」
「記述表記の字体も基本を押さえていてとても見易い。こういう所は、こちらがどう言おうとなかなか直せるものではないからな。」
「…ありがとう。」
「何より、線が綺麗だ。常に太さが均一でブレもない。毎回見せてもらっているが、本当に尊敬する。」
恋人であり、職場の後輩でもある依紗のことを、何の衒いもなく素直に褒める牧に、依紗は照れ臭くなって俯いた。その様子に牧は訝しむ。
「なんだ、何か気に障ったか。」
「ストレートすぎて照れる…ありがとう。」
「なんだ、そういうことか。」
牧は笑いながら依紗の髪を梳き、やがて依紗に回していた手を戻して製図の用紙を丁寧にまとめる。
「ありがとう。いいものを見せてもらった。」
「こちらこそ、毎回ありがとうございます、牧さん。」
依紗が用紙を受け取ろうと手を差し出すと、牧はその手を掴み、自身の口元へ寄せる。
「…なかなか定着しないんだな。」
「え?」
「名前。」
「…あ、ごめんなさい。」
紳一さん、と頬を染め俯きながら呟く依紗に、牧は目を瞠る。そして、くつくつと笑う。
「はは…全く、依紗にはいつも翻弄されてしまうな。」
「嘘ばっかり。」
「俺は嘘なんてつかないぞ。」
用紙をテーブルに置き、掴んでいた手を離すと、依紗の頬に手を添える。
「依紗の声に、表情に、その姿に、いつも心を乱され、翻弄されてしまう。」
「あのっ、」
「なんだ。」
「試験、来週だからもう少しなにかアドバイスを貰いたい…」
「後でいくらでもしてやる。」
そう言って牧は依紗の口を自身のそれで塞ぎ、黙らせる。合間に漏れる声に低く笑い、何度もその呼吸を奪い取る。
「…早く試験が終わってくれないだろうか。」
「こんなことされたら、思い出して集中出来ませんよ…。落ちたらどうするんですか。」
「落ちないさ。」
牧は依紗を抱き締め、耳元で囁く。
「落ちるものか。俺が信じているのだから。」
(ああ、もう、本当にこの人は。)
依紗は頷いて、背中に回した手に力を込めた。
Concentration Pleeease!!!!!
(台風で試験が延びました。)
(…そうか。)