湘北
名前変換
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体育祭委員会になったのが運の尽き。
あー…。
お願いしなきゃ。
君って意外と。
「三井くん…いま、いい?」
荷物を片付ける彼に声を掛ける。
部活だよね。邪魔しちゃったかな。
「あ?」
わ、これは邪魔したね、どうしよ。
「ごめんね、部活行くんだよね。」
「別にいーけど、なに?」
「ありがとう。あのね、体育祭のことなんだけど、」
「長くなる?」
「う、ううん、そんなことは、」
三井くんは前の席を指差す。
「取り敢えず座れよ。あー…別に時間かかると迷惑とかって意味じゃねーよ。徳重立たせとくのなんだなって。」
がしがし、と頭の後ろをかきながら少し目線を下に逸らして言う。あ、気を遣ってくれたんだ。
私はその言葉に従って三井くんの前の席に腰掛ける。彼は鞄を床に置くと、で?と続きを促した。
「体育祭の競技に出てもらいたいんだけど、長距離と、短距離の100mと200mがあるの。どれがいい?」
バスケ部なら走るの大丈夫だと思って、と付け加える。三井くんは眉間に皺を寄せ小さく唸る。サボるつもりだったかな、でも一応名前だけでも書いておかないといけないんだよな。
「短距離。それなら両方出るわ。」
「えっ、本当に?」
素っ頓狂な声を上げた私に、三井くんは怪訝な表情を向け、なんだよ、と言う。
「助かる!ちゃんと出てくれるんだよね?」
「俺をなんだと…や、まあ、日頃の行いか。」
三井くんは頬杖をついて窓の外に目をやり、ため息をつく。すごく絵になるなぁ、髪切って正解だったね。
「じゃ、ここ名前書いて。」
「ん。」
さらさらと書くその字は意外と可愛らしい。
「…んだよ。」
上目遣いにこちらを見上げるその視線にどきりとする。
「え、」
「…字書いてる時人に見られてるとなんか緊張すんな。」
ほらよ、と用紙をこちらに寄越すその指先は意外と手入れされているように見えた。
「ありがとう。三井くんって、爪、綺麗だね。」
「そうかぁ?」
何気なくそう言ってペンケースにシャーペンをしまうその仕草に、妙に胸が騒ついた。
あれ、もしかして、私。
「何呆けてんだ?まだなんかあんのか?」
目の前を三井くんの手が左右を行き来する。
私はそれにはっとする。
「ううん、大丈夫だよ、ごめんごめん。」
「なんで謝んだよ。」
くつくつと笑う彼に、また胸がざわざわした。
立ち上がると、エナメルバッグを担ぎこちらを見下ろす。
「じゃーな徳重、また明日。」
爽やかな笑顔で手を振る彼は、少し前とはまるで別人みたいにキラキラしていた。
(知らなかった、そんな風に笑うなんて。)