海南
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「ふあ〜…あ」
犬の散歩中に、あくびをひとつ。
「っと、いけないいけない…」
たとえ近所といえど、どんな出会いがあるかわからない。
(っていうか、近所だからこそ見られるのはマズイ、何かにつけ言われる、気をつけろ自分!)
そう叱りつけ何食わぬ顔で歩いていく。その間に何人かすれ違ったり追い抜かれたりはしていた。でも、そんなものはみんな背景、目には留まらない。日常ってのはそんなものだよと歩いていたが、
「あ、徳重だ、大きなあくびだね。」
ランニング中と思しき、ひときわ背の高い男の人が振り返って笑った。
こういうときに限って
「!?」
精々出会っても近所の人だと思っていたのに、まさか、出会うはずもない人に、見られたくない人に、思い切り見られた上、笑われてしまった。
「じ、神、くん……!?」
「おはよ、徳重ってこの辺りなの?」
神は依紗が追いついて来るのを待ち、合わせるように歩いた。
「そう、学校から近いの。」
「へえー…お、懐かれてる。」
雑種の犬ではあったが、柴犬に近い見た目で、基本的には人懐こくいつも機嫌がいい。
(いいんだけど…)
「ノブナガ、なんでそんなに神くんに懐いてんのよ…。」
「ノブナガっていうの?」
「うん、女の子なのにね。弟がそう付けたの。」
「あはは、なんか後輩に似てる。」
弟のこと?依紗が尋ねると、いやいやわんちゃんの方、と神は笑う。
「それより神くん、時間いいの?練習始まらない?」
「全然余裕。今朝は随分早く来ちゃったんだよね。お陰で徳重に会えて良かった。」
でももう行くね、とノブナガを撫でて立ち上がる。
「あ、ねえ、徳重は休日の朝、このくらいの時間に散歩してるの?」
「うん、早く起きれればね。」
「じゃ、明日も会える?」
「え、あ、うん。」
出来るかわからない約束を、流れでしてしまう。
「じゃ、また明日。」
「うん、また明日、ね。」
(っていうか、それってどういう意味!?)
神の後ろ姿を見つめる。
期待してもいいのか分からないが、胸は高鳴るばかり。依紗はしゃがんで愛犬を抱きしめる。
「ノブナガ〜どうしよう〜!」
彼女はキョロキョロして、ひとつ鳴いた。
その声に顔を上げると、行ってしまったはずの相手が立っていた。
依紗は驚き過ぎて声を失っていたが、彼は笑顔でしゃがみ、耳元でこう言った。
「そういう意味だよ。楽しみにしてるから。」
それだけ言って、今度こそ行ってしまった。
(神くんは超能力者かも知れない…。)
次会ったら何を話したらいいのだろう。そんなことを考えながら、いつもの散歩コースを歩く。今の自分は一体どんな顔をしているやら。
(依紗ちゃん、なんだか今日は顔が緩いねぇ。)
(ぎゃっ、お隣さん……!)