海南
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彼は私よりも歳下で。
私はもう三十路で。
そろそろ焦ってるわけで。
でもその気配はなくて。
だからもう、決めていた。
今日絶対言うって。
ダメなら別れようって。
じゃなきゃお互いに不幸になるだけだ。
帰宅後、宗一郎くんはごはんを食べながら機嫌良く笑っている。
毎週水曜日、定時退社日に彼の家で夕飯を作って待つのが好きだった。どんなに仕事が多くたって、この日だけはスパッと帰る習慣が身に付いた。
「依紗さんのごはんはいつも美味しいね。」
「ありがとう。」
「このスープ初めてだよね?すごい好きだなぁ、また作ってよ。」
「嬉しいな、もちろんだよ。」
また、があるといいな。
未来を、君と歩けたらそんな幸せなことはない。
食器を洗って、拭いて、片付ける宗一郎くん。
2人で選んだ食器を大切に扱ってくれる。
「片付けありがとうね。」
「ううん、こちらこそ、美味しいごはんありがとう。」
その穏やかな笑顔にどれだけ癒されたことか。
その優しい眼差しに幾度となく救われた。
失いたくない。ずっと一緒に居たい。
隣に座って、腕が触れ合う。
そこから伝わる熱が愛おしい。
「ね、宗一郎くん。」
「私と、結婚してくれませんか。」
こちらを振り返り、ぱっちりとした目を瞬かせる。
そして一瞬、表情が強張った。
笑顔が引きつったのを、見逃さない。
30年生きてくると、流石に色々わかってくる。
明らかに、しまった、という顔だ。
「依紗さん、そういうのは俺……」
私は、ぱん、と手を打った。
「そっか!」
だめだ、泣きそう。
「じゃ、おしまいにしよう。」
サッと立ち上がってコートを手に取る。
「さよなら、今までありがとう。」
君はまだ、若いから。
私はそろそろ結婚したいから。
そこが噛み合わないなら一緒に居ても先は長くない。だから、おしまいにしよう。
玄関の扉に手を掛けた時だった。
「待って。」
ノブに置いた手に、彼の手が重なる。
私の顔の横から伸びてきた手はドアに置かれる。
「依紗、」
「帰さないよ。」
意志の強い声だった。
いつもより、少し低くて、圧力を感じるような。
手が肩の辺りに回ってきて、抱き締められる。
困るよ、そんなことされると逃げられない。
「……俺から言うはずだったんだ。」
「その……指輪、まだ作ってもらってる最中で。」
照れ臭そうに、ややばつが悪そうに呟いた。
私は力が抜けてしまって、膝から崩れそうになる。
宗一郎くんはそれをしっかり支えてくれた。
なに、それ。
すごく愛おしい。
宗一郎くんが、私の手を引いて立ち上がらせてくれた。今度は正面に温もりを感じる。
彼の心臓はこんなに早く打つこともあるんだ。
知らなかったなぁ。
「だから…もう少し待って。ちゃんと言いたい。」
その言葉に少し浸っていたが、そんなの勿体ない。
「でも、今聞いたの、なかったことになんかできないよ。だってすごく、」
その先は取っておいて。
そう遮って唇が押し付けられる。
「格好悪いだろ、こんなの。」
珍しく、拗ねたように口を尖らせる彼がすごく可愛らしくて、くすくすと笑ってしまった。
「笑わないでよ、依紗さん。」
「だって、そんな宗一郎くん、今を逃したらこの先絶対見られないよ。」
「そんなことないよ。」
「これからはずっと一緒なんだから。」
その言葉がじわりじわりと私の心に染み込んで、自然と笑みが溢れてしまうの。
幸せって、こういうことなんだね。
急がば回れ
(今日それとなく予定聞いてレストランとか予約しようと思ってたのにな。)
(どんなとこ?)
(内緒に決まってるだろ。)
(楽しみだなぁ。)
(依紗さんの行動力だけが予定外だったよ。)