湘北
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「え?変質者?」
「最近多いらしいから、徳重さんも、気をつけた方がいいよ。」
バイト先で社員さんからそんな話を聞いた。
自分は大丈夫とか思わない方がいいと言うけど、自分は大丈夫じゃないと思う方が大変なことだ。私は自己評価、そんなに高くない。
足が棒みたい。
疲れた、ものすっごい疲れた。
他のバイトがドタキャンするし、
面倒くさいクレーマーは来るし、
シニアパートさんの尻拭いさせられるし、
今日だけで、起こりうる最悪の出来事がバーゲンセールだ。
明日は日曜だし、バイトも休みだし、堕落の限りを尽くしてやる。いや、でも課題やらなきゃ。
そんなことを考えながら歩いていると、ひたひたと足音が聞こえる。
うわ、なにこれ、これが噂の変質者?
いやだ、こわい。
どうしよう。
とりあえず大きな声出せばいいのかな。
今日は本当に不運のバーゲンセールだなチクショー!
すぐ後ろにいる、やばい……
わ!肩に手を置かれた!!!
「いや……」
「依紗!」
鈍い音と共に、気配が、ふ、と消えた気がした。振り返ると知らない男の人が倒れて呻いている。
「ボサッとすんな、こっち来い!」
「ちょ、ちょっと……!」
強い力に引っ張られ、転ばないように足を動かす。明るい大通りに出ると、声の主が振り返る。
「よ、洋平…!」
「大丈夫だったか?怪我ないか?」
「ないよ、なにもされてない。」
良かった、と言いながら服汚れてないかとかチェックしてくる。
「バイト?なんであんな暗い道通るんだよ。」
「あの道が最短距離だもん。」
「夜はやめろよ。」
「早く帰りたいじゃん。」
洋平は軽く睨み、だったら、と口を開く。
「俺が迎えに行くから連絡寄越せよ。」
「彼氏でもないのに。」
「じゃあなる?俺の彼女。」
「は?」
なに言ってんの、本気なの?
冗談でも言っていい事と悪いことがあるよ?
不運のバーゲンセールもここまで来ると笑えない。
「今日ほんとしんどかったから、余裕ないんだよ。へんな冗談やめてくれない?」
「俺真面目に言ってんだけど。」
洋平は、脅すのとは違う、真剣な目でまっすぐこちらを見る。昔からその目に射すくめられるとどうしていいかわからなくなるよ。
逃げられなくなる。
「俺、依紗のこと、好きだよ。」
「え?」
目をしばたたき、洋平を見つめる。
なんて言った?
今日全部の不運はこのためのものだった?
「洋平、ほんとに?」
「ほんとのほんと。」
はは、と洋平は笑うと、
「依紗さ、」
「俺のこと好きだろ。」
とサラッと言ってのける。
目を細めて、柔らかい表情で。
私、その表情に弱いんだよ。
ねぇ、いつから知ってたの。
本当に腹が立つ。
腹が立つのに、許してしまう。
「知ってるならもっと早く言ってよぉ。」
「ごめんごめん、泣くなよ。」
笑いながら頭を撫でてくるその手は優しくて、
ささくれ立った心を和らげてくれる。
「今日も一日、よく頑張ったな。」
君にハナマル。
(君を好きになって良かった!)
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