湘北
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言葉には気を付けて。
遠くで花火の音がする。立て続けになり響く音から察するに、クライマックスだ。
花火の光を背に重い足を引きずって歩く。浴衣に下駄、少し背伸びしたヘアメイク。そして、それに不似合いな一泊分の荷物を抱えて行くあてもなくさまよう私はなんと惨めなのだろう。
「……あ?なんだ徳重。」
「げ、青田…。」
走り込みをしていたのか汗だくのクラスメイトに出会ってしまい顔を顰める。よりにもよって面倒な奴に。
「なんだこんな時間に。」
「花火…。」
「その割に浮かない顔をしてるじゃないか。」
「そうかな。」
「なんだ、家出か。」
「違うって…。」
どこの国に浴衣で家出する物好きがいるものか。こいつは本当になんなんだ。
「……。」
「走ってたんでしょ、早く行ったら。」
「女子を、それもクラスメイトをこんな時間にひとりで歩かせるわけにはいかん。」
「はあ…。」
手を差し出し、荷物を寄越せと顎をしゃくる。溜息をひとつついて手渡した。
「…なにがあった。」
「…彼氏と、花火見に行く予定だった。」
「ひとりじゃないか。」
「泊まりの予定だったから荷物置かせてもらおうと思って時間より早めに家まで行ったら、知らない女とやってた。」
「…ほう。」
「外まで聞こえる声で喘ぐなっつうの。つうか窓閉めろ。」
同じバイト先で働く大学生の彼氏。ひとり暮らしのその家に初めて泊まることになっていた。
嬉しいような恥ずかしいような、もちろん、緊張もしていた。しかしそれは一瞬で打ち砕かれたのだ。
「…花火、みたかったな。」
「やるか、一発。」
「……はあ!?」
「確かこの先に公園あったろ。」
やる、やるって!?はあ!?外で!?馬鹿なの!?
「ちょ、ちょっと、何言ってんの!?」
「必要なモノはコンビニに売ってるだろ。」
「う、売ってるけど…ええ!?」
「やかましいな。なんださっきから。線香花火くらいなら文句も言われないだろ。」
「………やるって、」
「花火だが。」
さいあく、さいあくだ!!!この脳みそが!クソが!!そりゃあそうだよ!!あーよかった!!
「なんださっきから。顔が忙しいな。」
「……やるって、この流れで言ったらアンタ。」
「なんだ、花火だろ。」
「………。」
「………あっ、そっちか!」
「やめてよ!もういい!いいって!」
青田はみるみるうちに顔を赤くして、咳き込んだ。私までつられて赤くなる。これは完全に私が悪い。本当に悪いのは私だ、ごめん青田…。
「……ごめん、ほんと。」
「俺は、傷心の女をその場の感情で抱けるほど慣れてはいないし、そんな余裕も…ない。」
そこで、ふ、と困ったように笑う
「せめて、徳重の気晴らしに付き合わせてくれ。」
そのくらいなら出来るから、と言うとコンビニに向かって歩き出した。
どうしよう、すごく楽しみだ。
弾けて消えて、また咲いて
こんな苦い恋は
線香花火の玉といっしょに消してしまおう。
アンタと一緒に。
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2020.5.28花火の日