第四十話 恋話
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硝子の処置は実に見事で、流石は医者だった。そして、本来なら数日は固定させるために動かせない所を反転術式を使ってすぐに着けられるようにしてくれた。全く痛みを感じる事なく処置は終わり、野薔薇も自分の時はお願いします!と前のめりだった。
その日の夜、ナマエは恵の部屋に行くことはなく、メッセージアプリで「もう大丈夫だよ」とだけ伝えて野薔薇と夕食を共にして眠くなるまで野薔薇と女子トークに花を咲かせたのだった。
ナマエにとってはじめての友達、そしてはじめての恋バナ。恋バナはさておき、早く恵に報告したかったナマエだったが、ピアスの事もありグッと堪えた。
――そして翌朝。今日は座学の為、教室に集まる事になっている。
ナマエから野薔薇と一緒に行くと言われていた恵は、一人で教室に向かった。
(つーか昨日の今日でそんなに仲良くなったのか?)
喜ばしいことではあるが、これまでどんな時でも恵にべったりだったナマエが少し離れたような気がして恵は少しだけ面白くなかった。しばらくして現れたのは虎杖だ。
「おーす!おはよー!」
「……はよ。」
「あれ?なんか元気ない?」
「別に。」
「そう?……つーかさ、大丈夫かなアイツら。昨日あんな事があった後だしさぁ。」
何も知らない虎杖が心配するのも無理はない。あれだけ言い合ったのだから。
「もう大丈夫らしいぞ。よく分からんが。」
「へー?仲直りできたんかな?」
「だと思う。」
「ふーん、なんで伏黒は知ってんの?」
「ナマエからメッセージが来た。」
そんな会話をしているうちに、廊下がガヤガヤとしだした。
「もー!さっさと歩く!」
「いや、でも!ちょっと待って!!」
「なに言ってんのよ!早く見せたいんでしょ?」
「そうなんだけど…そうじゃなくて!!」
「うるさい!早く来る!!」
「はいっ!」
「……なんだぁ?」
「さぁ。」
女子2人の声が聞こえてきたが何やら揉めているようにも聞こえる。仲直りしたんじゃなかったのか?と恵が不思議に思っている内に教室の扉がガラガラと開いた。
「おはよー!あら、アンタたち早いわね。」
「おはよー釘崎!あれ?ミョウジは?」
「ほら、早く入りなさいよ。」
「ううう……」
「「?」」
男子2人が疑問に思っているとオズオズとナマエが扉の端から顔を覗かせた。
「お……おはよーございます……」
「……!」
こっそりと顔を覗かせたナマエは、いつものポニーテールではなく、どうやったのかは知らないが綺麗に編み込まれてサイドに纏められていた。
見慣れない姿に恵が何も言わずにいると、虎杖がおー!と声を上げた。
「すげぇな!どうなってんの?それ。めっちゃかわいいじゃん!」
「はは……そうかな?野薔薇ちゃんがやってくれたの。」
はにかみながら教室に入ってきたナマエを見て恵は更に驚き目を丸くした。
「お前……それ。」
「……へへ、穴、空けてもらったの。……似合う?」
「あー!ピアスじゃん!似合う似合う!かわい……っ痛ぇ!!」
「アンタじゃない!!」
ただ素直に褒めただけなのに何故か野薔薇の鉄拳を食らった虎杖は頬を撫でながら「なんで!?」と嘆いているが、野薔薇は完全に無視だ。
「ちょっと伏黒!アンタ何か言うことある…………でしょ……」
「恵……?」
野薔薇が言葉を無くしてナマエが不思議に思うのも仕方がなかった。
――恵が口に手を当てて顔を背けてしまっていたから。表情こそ分からなかったが、何を考えているかは野薔薇と虎杖にはすぐに分かった。……耳がこれでもかと真っ赤だったから。
「恵?どしたの?」
「なんでもない。」
「なんでもなくないよ、大丈夫?」
「っ!こっち見んな!」
「えー?」
このやりとりを見た虎杖が、ははーん、と言いながら後ろを見やると、同じ顔をした野薔薇と目が合った。そして、アイコンタクトで意思疎通を図る。
(虎杖!)
(承知!)
「あー、俺そういや喉乾いてんだった。なぁ釘崎ー自販機いこーぜ!」
「いいわよ、アンタの奢りね!」
「え゛!またぁ!?」
「四の五の言わない!行くわよ!」
「え?野薔薇ちゃん?」
「じゃあねー!」
「え!ちょっと!」
そのままピシャンと扉を閉めて居なくなってしまい、教室にはナマエと恵の2人だけになってしまった。
顔を背けていた恵も、ゆっくりとこちらに振り返り、でもちょっとだけ目を逸らしながらナマエに話しかけた。
「頭、どうなってんだ。」
「わかんない、なんか野薔薇ちゃんがグルグルやってた。すごいよね!野薔薇ちゃんすごく器用で羨ましいよ。」
「耳……俺が空けてやるって言っただろ。」
「あー、プロに任せた方がいいって野薔薇ちゃんに言われて……」
「プロ?」
「硝子ちゃんだよ。お医者さんなら間違いないって。」
「あー…確かに。」
「…ダメ……だった?」
「いや……別に。」
「「…………。」」
少しだけ沈黙が続いたかと思えば、徐に恵が耳に手を当てて顔を近づけてきた。
「っ近いよ…。」
「近づけてんだ。ちゃんと見せろ。」
「ビックリした?」
「……した。つーか驚かせたかったのか?」
「うん、ずっと着けたかったし。……似合う?」
「……あぁ、似合ってる。…………かわいい。」
「っ!!」
珍しい恵の言葉にドクンと心臓が跳ねた。ゆっくりと恵の方を見ると、すごく優しい顔をしていたから、ナマエはなぜか泣きそうになった。
「ナマエ。」
「……。」
名を呼ばれたと思えば恵の顔がゆっくりと近づいてきた。あ、キスされる……と思ってナマエが目を瞑ったその時……バン!と扉が大きく音を立てて開いた。
「おっはーーー!!!今日もいい天気だね!座学日和だ!!」
「「…………。」」
「あれ?2人だけ?」
「悟くん……」
「んん?ナマエどしたの?顔が真っ赤だよ?」
ニヤニヤしながら問いかける五条は絶対に確信犯だ、と恵はすぐに理解した。絶対に分かっていて大袈裟に扉を開いたに違いない。恵の顔はさっきまでの優しい表情から般若のような顔に一瞬で変わってしまった。
「あれー?恵ーどしたの?そんな怖い顔して。」
「……なんでもないです。」
「えー?コワ!」
「「…………。」」
その後、五条はナマエの髪型やピアスをひとしきり褒めちぎりかわいいかわいいと連呼していたが、2人がナニをしようとしていたかには一切触れなかった。
時間を空けて戻ってきた虎杖と野薔薇は、てっきりイチャついているだろうと踏んでいただけに、不機嫌な恵の様子にハテナが浮かんだ。ナマエも眉を下げてハハハと笑うだけでよく分からない。
それよりも更に虎杖が疑問に思ったのは野薔薇とナマエだった。
授業の合間の休み時間もキャッキャと楽しそうに話しているし、いつの間にかお互い名前で呼び合う仲になっているのだ。伏黒から仲直りしたらしいと聞いてはいたが、それでもこれは仲が良すぎではなかろうか。
伏黒に聞いても、不機嫌なままで俺も知らんとそっけない答えが返って来るだけだった。
虎杖は思った。
――女って、訳が分からん。