第三十九話 友達
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女子寮一階の廊下——をフラフラと歩いている人影は……ナマエだ。
恵の部屋を出てから甘い空気の余韻を纏いながら自室へと戻っている途中だった。釘崎と絶賛大喧嘩中だというのに恵にうつつを抜かしていた事実に、少し反省しながら帰路を辿っていた。
それでも、恵と話したことで釘崎とちゃんと向き合おうという気持ちになれた。甘い時間と一緒にちゃんと勇気ももらった。
——あとは、どう切り出すか。ただそれだけだ。
その前に、この任務でボロボロになった制服姿をどうにかしよう。この格好のまま恵のベッドに上がってしまったのは確かに申し訳がなかったな、などと考えている内に、自室前へとたどり着いた。部屋の鍵を開けて中に入ろうとしたその時——
バンッ!!!
隣の部屋から大きな音を立てて血相を変えた様子の釘崎が飛び出してきた。想定外の出来事にナマエはヒッと肩をすくめて固まってしまった。そんなナマエに釘崎はツカツカと近寄ってきて、そのままガシッとナマエの両肩を掴む。
「ミョウジ!!」
「はいっ!」
いきなりの釘崎の剣幕に思わずピシッと背筋を伸ばして『きをつけ』をしてしまったナマエ。
「アンタ……今までどこほっつき歩いてたのよ!!」
「……へ?」
「いつまで経っても帰ってこないから心配したじゃないの!自販機のとこにも事務所にも医務室にもどこ探しても居ないし!ていうかアンタの行きそうなところなんて私は知らないし!ついでに硝子さんの所で挨拶まで済ませちゃったわよ!」
「え……と、探して……くれてたの?」
「……。」
どうやら釘崎は自分を探すため色んなところを回ったらしかった。なぜかは分からないが、ここで恵の所にいたなんて事は、ましてやイチャイチャしてました、なんて死んでも話せないな、ということだけはハッキリと分かった。驚きに目を丸くしていると、釘崎がため息を吐きながら何やらゴニョゴニョと言いづらそうに呟いた。
「さっきは熱くなっちゃったし…ちょっとだけ言いすぎた感がなくもなかったような気がしないでもなかったから……少し話そうと思ってたのよ。」
「釘崎さん…」
「そしたらアンタ居ないし。なかなか帰ってこないし。さすがにないだろうとは思ったけど万が一…変な気とか起こしたりしないかって嫌な想像とか…しちゃったし。」
「えーと…ごめんなさい?」
釘崎の言葉にナマエは訳がわからなかったが心配をかけていたらしいことはわかった。ので謝ってみたが……
「はぁ。もういいわよ。」
「……。」
「……。」
「……。」
なぜかため息をついて呆れられた。そして2人して無言になってしまった。ナマエはついさっきまで釘崎と話をしようと意気込んでいたが、それはこんなにすぐではなかった。まずは自室で着替えて気持ちを落ち着かせてから釘崎の部屋を訪ねようとしていたのだ。それがどうだ。突然そのタイミングがやって来てしまってどうしたらいいのかが分からなくなってしまった。
一方の釘崎。本人が言っていたようにナマエが部屋に戻らないことでどこか不安になってきた矢先に当の本人が戻ってきた。勢いよく部屋を飛び出しその勢いのままガシリと肩を掴んでしまった。さすがにため息のタイミングで肩から手を放したが、ここからどうしたものか。
何かきっかけはないかと思いあぐねていた釘崎は、あれがある、と思い出した。
「ねぇ。お腹……減ってない?」
「へ?……そういえ………」
―キュルルル……
「ば……。」
「………。」
ナマエが言い終わる前にまるでお約束かのように腹の虫が返事をしてくれた。マンガのような展開にナマエは恥ずかしくなってお腹を押さえて俯いたが、釘崎は「でしょうね」と特に気にすることもなくフッと息を吐いた。
「さっき食堂に寄った時におにぎり貰ってきたの。2人分。一緒に食べない?」
「……いいの?」
「嫌なら別にいいわよ。私が1人で食べるから。」
「いえっ!いただきます!」
「その代わりアンタの部屋…行ってもいい?」
「え?」
「私の部屋、こっちに来たばっかで片付け終わってないの。」
「あ、うん、私の部屋で良ければ、どうぞ……。」
釘崎はおにぎりをとりに一度部屋に戻り、ナマエも着替えや釘崎を出迎えるために部屋で準備をすることになった。
こうして、なんだかんだで2人がしっかり話すためのステージが用意されてしまった。