第三十八話 勃発
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「おい、釘崎……」
「こういうのはさっさとハッキリさせておかないと気持ち悪いのよ。」
「な、に……?」
恵の制止は全く意味がなかった。不安そうなナマエに対して釘崎はまっすぐナマエの方を見て続けた。
「そうやってずっと私に遠慮してお伺いを立てて壁を作りながらやってく気?」
「え……?」
「中学の時の同級生ってのがどんな奴らかは知らないけど。私がそいつらみたいに嫌がらせでもすると思った?一緒にしないで欲しいわ。」
「っ!…………話したの?」
「…………。」
釘崎の言葉にナマエは驚いたように目を見開いたあと、すぐに恵の方を信じられないとでも言うようにキッと睨みつけた。まさか恵が自分の嫌な思い出を他人に話すとは思わなかったから。何も言わない恵にだんだんと怒りが湧いてきたナマエだったが、釘崎が間に入るように話を続けた。
「伏黒は悪くないわよ。私が無理矢理聞き出しただけだから。それくらいあんたの態度は不自然なの。分かる?」
「っ……。」
まるで責めるような言い方をされて、ナマエ自身、沸々と怒りのような感情が湧いてくるのが分かった。どうしてそんな言い方をされなければいけないのか、と。
「…………いの。」
「何。聞こえないんだけど。」
「波風立てずに平穏に過ごしたいって思うことの何が悪いの!」
ついにナマエも声を荒げてしまった。こんな事になるなんて数分前まで考えてもいなかったせいか、既にキャパオーバーだ。そんなナマエの様子に虎杖が驚いて止めにかかったが。
「お、おいミョウジ…釘崎も、ちょっと落ち着けって……」
「「アンタは黙ってて!!」」
「……ハイ。」
2人の剣幕に気圧されて虎杖の2人を止めようとする勇気はすぐに萎んでしまった。恵に至っては、もうどう足掻いても止まらないと諦めたのか。黙って静観している。
「波風立てず?平穏?えらく聞こえの良い言い方するわね。それなら全員に同じようにしなさいよ。女が苦手なんだかどうだか知らないけど。人を選んでんじゃないわよ!」
「なんで釘崎さんにそこまで言われなきゃいけないの!?」
「低レベルなあんたの同級生と同じだと思われてるのが気に入らないのよ!」
もはや完全に怒鳴り合いだ。似たような言葉の応酬が続く。恵はもちろん、虎杖も何も言えなかった。そして、感情の膨らみが頂点に達したのか。ナマエが目にいっぱい涙を溜めて、そして決して零さまいとしながら声を震わせながら叫んだ。
「釘崎さんには分かんないよ!一人ぼっちでお昼ご飯食べる寂しさも!ペアを組むのがいつも先生になる虚しさも!……どんどんクラスメイトが離れてく怖さだって!…………釘崎さんには分かんない!!」
「…………。」
「またそんな思いするくらいなら何事もなく無難でいいって思うことの…失敗したくないって思うことの…なにが悪いの……。」
「ナマエ……」
恵は、知らなかった。ナマエの心の傷がここまで根深いものだとは思っていなかった。いつも大丈夫だと言って笑っていたナマエの本心に気づいてやれていなかった。一番近くにいたのに。何が幼馴染だ……と、恵の眉にはグッと皺が寄った。
ふぅふぅと息を荒くしながら叫んだナマエの言葉を聞いて、少しの間黙っていた釘崎だったが。多少冷静になったのか。落ち着いた声でゆっくりと話しだした。
「…そうね。私はあんたと同じ経験をしてないから。それがどんな気持ちかなんて、想像はできても本当のところは分からないわ。」
「っ。」
「でもね。……私自身のことなんか何も見ずに。知ろうとすらせずに。勝手に決めつけて…訳もわからずそんな態度を取られた私の気持ちは、あんたには分かんないわよ。」
「っ!」
俯き涙を堪えていたナマエは、釘崎の言葉にハッと顔を上げた。その瞬間ボロっと目尻から涙を落としてしまった。
「「…………。」」
両者の沈黙は続き……先に根を上げたのは、ナマエの方だった。
「………ちょっと…頭冷やしてくる。ごめん、先に戻るね。恵、ジュースごちそうさま。」
「あ、ミョウジ……」
虎杖の制止も虚しく、ナマエはそのまま談話室を出て行ってしまった。
「「「…………。」」」
再び静かになった談話室。次に動いたのは釘崎。缶ジュースの残りを一気に飲み干してから立ち上がり、カランとゴミ箱へ捨てたあと、私も戻るわと入り口へ向かった。
「釘崎。」
「分かってるわよ。少し時間ずらして戻るから。隣の部屋だし。」
そうして男2人になった談話室。まるで今まで息を止めていたかのように虎杖がはぁっと大きく息を吐き出した。
「こえーよ……。俺何もできんかったわ。どうすんの?」
「どうもしねぇよ。俺らの存在無視してあんだけ言いたい事言い合ったんだ。お互いスッキリしただろ。」
「でもさぁ……」
「いいからほっとけ。」
「うーん…。」
とは言いつつも恵は後でナマエの元へ向かうつもりなのだが。釈然としない様子の虎杖は無視する事にした。ウンウンと唸る虎杖に、自分たちも戻るぞと声をかけた恵に、虎杖が疑問を口にした。
「つーかさ、初めて顔合わせてからまだ数日よ?たった数日でこんな拗れる?」
「それは俺も同感だ。」
2人共の気持ちはそれぞれ理解できたものの、男子2人が思ったことは同じだった。
「「女ってめんどくせぇ。」」