第三十七話 理由
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しばらく無言の睨み合いのような状態が続き、先に言葉を発したのは恵の方だった。
「……俺に聞くな。」
「まだ何も言ってないわよ。」
「言わなくても分かる。」
「え、なに?どゆこと?」
戸惑う虎杖のことは放置して一つ息を吐いた恵は、話す気はありませんとばかりに釘崎から視線を外した。そんな恵に屈することなく釘崎は続ける。
「アンタあの子の幼馴染でしょ。絶対知ってるわよね。」
「あいつが自分から言わねぇことを俺が言うと思うか?」
「やっぱり何かあるのね。……私あの子に何かした?」
「……釘崎のせいじゃない。あいつの問題だ。」
「だからそれが知りたいって言ってんのよ!」
「言わねぇって言ってんだろうが!」
「そんな言い方されたら余計に気になるでしょうが!」
「それはお前がしつこいからだろ!」
「ちょ、ちょちょちょ、2人とも落ち着けって!」
段々と声が大きくなってくる2人に虎杖が間に入る。恵と釘崎の睨み合いをアワアワと止めにかかった。
「私は…別に仲良しこよしがしたいって言ってんじゃないのよ。でも。これから一緒に任務やら何やらをこなしていくのに…今のままでいいとは思わない。」
「…………。」
「理由に納得がいけば、今の状況もそういうものなんだって受け入れる。」
「…………。」
「こんなスッキリしない状況で危険な任務に一緒につくことなんてできやしないわ。」
「…………。」
黙り込む恵にどんどん言葉を連ねる釘崎。恵としては釘崎の言い分は十分理解できた。命懸けの任務には互いの連携や、信頼も必要だ。今のままだとそれがままならないのも分かる。一回限りの共同任務ならそれでも構わないが、同期となるとそうもいかない。だが、理由を知った釘崎が納得するとも思えない。どうしたもんかと熟考していた恵に痺れを切らした釘崎は何か言いなさいよと急かしてくる。大きく深呼吸をするように息を吐いた恵が取った手段は……オブラートに包むことだった。
「あいつは……ナマエは、釘崎との距離の取り方を測り兼ねてるだけだ。というか、分からないからナマエ本人も戸惑ってる。釘崎が何かしたわけじゃない。それだけだ。」
「……だからその理由を聞いてるんですけど。まどろっこしい言い方してんじゃないわよ。」
オブラート作戦は失敗だ。うまく行くとも思ってはいなかったが。釘崎を余計にイラつかせただけかもしれない。虎杖も良く分からなかったのか、首を傾げている。
「何かあるんでしょ。〝私〟相手にそうなる理由が。……違うわね、〝女〟相手に。あの感じだとただの男好きってわけでもないでしょう。」
そこまで分かっていながら尚その理由を聞き出そうとする釘崎に、これは言うまで引き下がらないだろうと恵は諦めた。というか、話すことで何か変わるかもしれない。そう思った。そして、内心でナマエに謝りながらもポツポツと話し始めた。もちろん、何もかも話すつもりはない。
「……中学の時。色々あってナマエは周りから孤立してた。陰湿な嫌がらせを受けることも頻繁にあった。分かりやすく言や、ありゃイジメだ。」
「え?なんで?ミョウジなんかしたの?」
「してねぇ。きっかけはしょうもないやっかみだ。ナマエは何を言われても折れなかったからな。それが面白く無かったんだろ。だんだんヒートアップしてった。仲良くしてた同級生も初めは居たんだがそいつらは巻き込まれたくないからと離れていった。だからあいつに同級生の女友達は居ない。……これでいいか。あとはだいたい想像つくだろ。」
虎杖は不服そうな顔で、釘崎は何か考え込んでいるような顔で。それぞれ黙り込んだ。……が。
「何で伏黒はその時ミョウジの事助けてやんなかったの?かわいそうじゃん!」
虎杖が眉を寄せながらもっともな事を言ってきた。だがこっちにはこっちの事情というものがある。
「……いろいろあるんだよ。」
「いろいろって何だよ…。」
虎杖は不服そうではあるもののこれ以上恵が何か言うことはないだろうと悟ったのかそのまま黙った。しばらく沈黙が続いたあと、釘崎がポツリと漏らした。
「……だから私は避けられてるっての?」
「避けてるわけじゃねぇ。釘崎とどう接したら平和に過ごせるか、そればっかり考えてあんな感じになってるんじゃないかと俺は思ってる。」
「平和にって…そんなの―――」
――コンコン――――――ガチャッ
釘崎が続きを話そうとした時、談話室の扉がノックされ現れたのは、医務室で治療を受けていた話の渦中の人、ナマエだった。
「あ……居た。えっと、無事治療おわりました……。」
終わったら来いとは言ったものの、なんとも絶妙に最悪のタイミングだった。