第三十七話 理由
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談話室。と言っても所詮はただの部屋である。とは言えテーブルにソファ、電子レンジにポット、そして簡易の流し台に共用の冷蔵庫が置いてあるので便利なのは確かだ。ちなみにその冷凍室に関しては先輩たちのアイスのせいで常にギチギチだ。
あとは、この談話室の魅力を強いて言うなら65インチの大型テレビが置いてあることくらいだろうか。
「おー!でっかいテレビがある!今度ここでなんか映画見ようぜ!」
「へぇ、意外と色々揃ってんのね。」
何を見ても新鮮な反応をする虎杖は、やはり1番にテレビに食いついた。釘崎も物珍しそうに周りを見渡している。先にソファへと座った二人に対して、恵はナマエ用に買っておいたジュースを冷蔵庫に入れてから同じようにソファへ腰掛けた。
「ほんじゃ釘崎!どんなんが出たか教えてよ!」
「いきなりか。そんなに聞きたかったの?」
「だってさー…俺らんとこ弱っちぃのばっかで全然達成感ねぇの。つまんなかったわ。なぁ伏黒?」
「まぁ確かにほぼ低級呪霊だったが。つーか任務につまるもつまらんも無いだろ。俺たちの方は怪我なく終えたんだ。それが一番だろうが。」
「「いや、マジメか。」」
「……なんだよ。」
2人だってそんなことは百も承知だ。それでも、何というか…揃って同じツッコミをしてしまった2人は多分悪くない。
「まぁ……いいわ。私たちのところも最初は雑魚呪霊ばっかりだったのよ。それで……」
釘崎は対峙した呪霊の特徴やおおよその能力、そして最後はナマエが仕留めたところまで包み隠さず話した。本当は自分が捕まって足手纏いになってしまったことなんて言いたくなかったが、どうせ恵が後でナマエに聞くだろうし、そうなると辻褄が合わなくなるだろうと思ったからである。
「透明になる奴とか居んのな!そりゃ苦戦もするわ。」
「…2級だけあってあの子の能力の高さは今回の任務でよく分かったわ。血筋が血筋だとやっぱり違うのね。」
「……。」
ナマエだけが怪我をした経緯はこれで大体わかった。だが……釘崎は誤解している。いや、そうじゃない。ただ知らないだけだ。ナマエがどれだけ兄に認めてもらいたかったか。その為にたった一年でどれだけの努力をしたのかを。当然の事ではあるが釘崎も虎杖も、知らない。
ナマエ本人はそんなこと別に知られなくてもいいと言うだろう。周りがどう思おうが、恐らく気にしない。
「へー俺も見たかったなぁ……って、伏黒?どったの?」
「…………いや。」
ナマエが良くても、恵は違った。これから4年間共に過ごすだろう信頼関係を築くべき仲間となる存在に、ナマエのことをちゃんと知って欲しいと思ってしまった。確かにあの身体能力は持って生まれたモノも影響しているのは確かだ。それでも、ナマエの今の実力は本人が掴み取ったもので。
ただしそんな誤解を解きたいと思う恵の気持ちは、勝手なエゴだ。そんな思いが顔に出てしまっていたのかもしれない。虎杖がどこか心配そうに覗き込んできた事でハッと我に返った。
「なに?なんか言いたげなカオしてるけど。」
「……なんでもねぇ。」
「伏黒…オマエ意外と分かりやすいのな。」
「……。」
「なんかあるんでしょ?あの子について、アンタが弁解したいことが。」
「え?そうなん?」
「……。」
釘崎の「聞いてやってもいいわよ」的な物言いにムッとした恵だったが聞かれたからにはと、ふーっと大きめの息を吐いて……その勝手なエゴを通すことに決めた。
「……あいつが本格的に呪術の訓練を始めたのは、中三の時だ。それまでは祓い方も何も知らないただの『視える』だけのヤツだった。」
「中三て、ついこないだじゃん!」
「なに、どういうこと?術師家系の生まれのくせに?」
恵は二人にあぁ、と一言挟んでから続けた。ナマエはミョウジ家相伝の術式を受け継がなかったこと。その事(だけではないが)で術師になることを禁じられていたこと。中三の時に術師になる事を許してもらう為に次期当主である兄に直談判したこと。どうにか一年以内に条件を満たせば高専への入学を認めてもらうという約束を取り付け、その為の血の滲むような特訓をしたこと。そしてその条件。それらを簡潔に二人に話した。
当時のナマエの感情の部分や、実家での扱いについてはさすがに伏せながらその事実だけを紡いだ。
「あいつは…ナマエは。本当に一年以内で条件を満たして、その上幼少期から訓練をしてた俺と同じ2級の肩書がもらえるまでの実力をつけて高専入学を果たした。だから……」
「伏黒の言いたいことはだいたい分かったわ。相伝を持ってないってのは本人から聞いたけど…そうね。知らなかったとは言え、私の発言がすこーーしだけ軽率だったのは認めるわ。」
「お、釘崎〜大人じゃん!」
「ふふん、当たり前でしょ。私は懐の深い女なの。」
「釘崎、それは自分で言わないほーがいいと思うよ。」
それな、と恵も思ったがこの後の釘崎の反応がこの数日だけの付き合いでも手にとるようにわかったので黙っておいた。
「あぁ!?んだとぉ!?」
ほら見ろと思っていたら、なんと更に虎杖が爆弾を投下した。
「ほらー、またそういう言い方する!そんな態度ばっかだとずっとミョウジが釘崎にビビったまんまになるよ?」
「……。」
「おい、虎杖――(余計なこと言うんじゃねぇ!)」
続く言葉をどうにか飲み込んだ恵だったが。釘崎が食いついてしまった。
「ちょっと待って。虎杖。アンタにはそう見えてんの?」
「ん?何が?」
(
恵の心の叫びは当然のことながら2人に届くことはなく。そしてはぐらかし方も分からないまま2人の会話は続く。
「だーかーらぁ、ミョウジが私にビビってるように見えんのかって聞いてんの!」
「んー?ビビってるっつーか…怖がってる?いや、怯えてる?そんな感じだと思ってたわ。え?違ぇの?」
「それ全部ビビってるんじゃない。」
「うるせぇなぁ!じゃあ釘崎は!?」
「私には……どこか遠慮してるっていうか…気を遣ってるっていうか……」
「それもだいたい同じ意味じゃん。」
「…とにかく!お伺いを立てるように話しかけられるのが気に入らないのよ。」
「うーん、言われてみればそんな感じがしなくもないかも?伏黒は?どう思う?」
「俺は……」
しっかりと深掘りされてしまい、ついでに釘崎の本音が分かったわけだが。恵としては事情を知っているだけに下手なことは言えない。しかもこの後の展開が恵の予想通りなら、良くない。大変よろしくない。
「伏黒。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
――ほらな。恵が視線を向けると、釘崎がまっすぐこちらを見ていた。