第三十七話 理由
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比較的高い位置に居たナマエたちの元へ、岩場をよじ登りながらやって来た二人。無言でずんずんと近付いてきた恵は、ナマエの目の前で立ち止まり、そのままヤンキーのようにしゃがみ込みナマエの前髪をスッとよけた。額ぱっくりと切ってしまったせいで未だに血がダラダラと流れている。傷口を見た恵は眉を顰めて口元はへの字のまま何も言わない。この沈黙が怖い。
「あのー、恵さん……?」
「……他には。」
「え?」
「他に怪我は。」
「無いっ!どこにも!ピンピンしてます!」
実の所、岩場に頭を打ちつけた時に左腕もやってしまっているがこれ以上恵の眉間の皺を増やしたくなかったナマエは咄嗟に嘘をついた。だが、目敏い恵はナマエの制服の左腕部分が擦り切れているのに気づいた。そして徐にその左腕をそっと持ち上げる。
「い゛っ!!!」
「………………おい。」
「…ハイ、スミマセンデシタ。」
完全に降参したナマエは右手を小さく挙手するように持ち上げてお手上げポーズをしながらしょんぼりと項垂れた。そこへ後から追いついてきた虎杖。
「え゛!?ミョウジどしたの!血塗れじゃん!!ダラダラじゃん!」
「……そんなにひどいの?」
恵の表情と虎杖の驚きようからすると、よっぽどなのだろうか。自分では見えないのでよく分からないがそういえばさっきから額はじくじくと脈を感じるように痛みを訴えてくる。実際、頭から血をダラダラたれ流しているナマエの見た目は結構なホラーだ。
「ひどいっつーか、見た目は結構ヤバいよ?」
「額の傷は血が派手に出るからねー、実際は大したことないから大丈夫だよ!」
「えー?そうなん?」
「うん、全然だいじょ…………ハイ、スミマセン。」
ジトリと恵に睨まれてしまい、ナマエは肩をすくめて口を噤んだ。そんな二人の様子を見て眉を下げた虎杖は、気になっていたもう一人にも声を掛けた。
「釘崎は?怪我してない?」
「私は平気。なんともないわ。」
「そっか、よかった!」
虎杖と会話をしながらポケットからハンカチを取り出した釘崎は、ナマエのそばでしゃがみ込んだ。そしてそのハンカチを傷口の方へと近づけた。……のだが。
「ほら、傷口見せて。」
「っ!!」
ビクっと分かりやすく肩を震わせたナマエに、釘崎の手もピタッと止まった。戦っている最中とは大違いのナマエの様子に釘崎は、あぁ、振り出しか、と思った。
「…………。」
「あ……ごめ、あの……」
「…伏黒。」
「あぁ。悪いな。」
すぐに察した恵は釘崎からハンカチを受け取り傷口にあてようとしたが。咄嗟にナマエがそれを制止した。
「っダメだよ!汚れちゃう!!」
釘崎のハンカチは小花柄の女の子らしいデザインで綺麗にアイロンがけされていた。こんなに可愛らしいハンカチを汚してしまうのは…とナマエは躊躇った。
「何のためのハンカチよ。」
「っでも……」
「いいから。」
「……ありがとう。」
そのやり取りを聞いた恵はそのハンカチでそっと傷口にあてた。
「っつ……!」
「ほらー、ミョウジやっぱ痛いんじゃん!早くちゃんと手当したほうが良さそうだな!とりあえず伊地知さんとこ戻ろうぜ!」
「そうだな。」
ハンカチをナマエに持たせて「そのまま当てとけ」と言った恵は、ゆっくりとナマエを立たせたと思ったら、ガッ!と胴に腕を回してナマエを担ぎ上げた。突然のことにナマエからは「ぎゃあ!」と可愛げのない悲鳴が上がる。
「ちょ!なに!?怖い!!やだ!!降ろしてよ!!!」
「おいコラ暴れんな!足場悪ぃんだ。」
「だったら先に言ってよ!!バカ!!」
「あーあーうるせぇ。」
その姿はまるで米俵でも担いでいるようだ。ぎゃあぎゃあと文句を言うナマエにじっとしてろと言いながら動き出した恵。
「ははっ、ミョウジー暴れたら落ちるぞー。」
「むーーーりーーー!!」
「ははははっ!!」
「何やってんの……。」
そんな恵たちを楽しげに見ながらの虎杖と、呆れたような声を出した釘崎。二人も恵の後を追うように歩き出した。
何も言わなかったが、釘崎の心情は穏やかではない。やはり自分に対しての反応だけ、違和感があるのだ。一体何があるのか。分からないまま恵たちの後をついて行った。
そして、そんな釘崎の心情など知る由もないナマエは……
「せめておんぶにしてよーーーぉ!!」
「うるせぇ。」