第三十四話 齟齬
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——コンコン。
「………居ない。先に行ったか。」
ナマエの部屋をノックしたのは、釘崎。昨夜、さすがにストレートに言いすぎたなと反省した釘崎は、ナマエと一緒に校門へ向かおうと部屋の扉を勇気を出して叩いたのだが。部屋の主はすでに出てしまっているようだった。
居ない物は仕方ない。ふうっと息を吐いてから校門への道を歩き出した。女子寮を出てしばらくすると、男子寮の方から焦ったように人が走り出てきた。昨日出会った、これから一緒に同じ学び舎で過ごすことになったゲテモノ食いの馬鹿力、もとい、虎杖だった。
「おっ!釘崎!おはよう!」
「アンタ何でそんなに急いでんの?時間ならまだあるわよ。」
「え!そうなん!?俺が起きた時伏黒がもう出るところだったからさ。俺時間間違えたかと思って焦ったわー。」
「あっちが早すぎんのよ。爺さんか。」
「ミョウジは?」
「部屋ノックしたけど居なかった。あの子も先に行ったんじゃない?」
「はー、あいつら真面目だなぁ。」
時間に余裕があると分かった虎杖はホッとしながら釘崎と校門へ一緒に向かう事にした。
「ねぇ虎杖。あの子ってどんな子?」
「あの子?ミョウジのこと?」
「そう。」
なんとなく、虎杖から見たナマエの印象について聞いてみようと思った。
「んー。つっても俺も会ってからまだ数日よ?」
「いいから。なんかあるでしょ。」
「なんかっつってもなー。明るくて元気でいつもニコニコしててー女子ってかんじ?」
「ふーん。」
やっぱりか、と思った。どうやら虎杖に対しても素の自分を見せていたらしい。つまり、自分だけ。自分に対してだけ遠慮したような態度をとる。釘崎は理由も分からずそんな態度をとられることが納得がいかなかった。
「あ、伏黒とは幼馴染で、五条先生はミョウジが小さい頃からの知り合いらしいよ。家が術師の家系なんだって。」
「へー。根っからの呪術師か。って、ミョウジ?あの子ミョウジって言ったっけ。」
「おう、どした?」
「あー、それでか。アンタは知らないでしょうけど。ミョウジ家って言ったら御三家と同じくらい有名な名家よ。…なるほどね。」
「ん?ゴサンケ?」
「五条先生も御三家の内の一つ、五条家のボンボンよ。」
「それってすごいの?」
「説明すんのめんどくさい。後で伏黒にでも聞け。」
扱いひどくない?と嘆く虎杖の事は無視して、釘崎は考えていた。
(名家のお嬢か…。周りからチヤホヤってのもあながち間違ってないかも?五条先生とか伏黒が甘やかしてそー。)
昨日初めてナマエを見た時の第一印象のことを思い返しながら、釘崎の中でどんどんナマエのイメージが固まっていく。名家の生まれであること、五条や伏黒との関わりを聞いて釘崎の中では周りの男共に甘やかされた良いトコの娘。という印象になってしまった。
本来の釘崎であれば、家柄や環境で人の事を判断などしたりしないのだが。なぜかうまくコミュニケーションの取れないナマエに、少し苛立ったせいかもしれない。
しばらく歩いていると、校門が近付いて来た。高専の制服を着た男女二人の姿も見えてきた。恵とナマエだ。
「お、二人揃ってんね!おーーぃムグっ!!」
「(ちょ、、、っと待て!!)」
遠くから虎杖が声を掛けようとしたところを、釘崎がその口を塞いで強制的に止めた。
「(何!?どしたの?)」
「(あれ…ホントにただの幼馴染!?)」
「(あ…。)」
二人が目撃したのは、恵がナマエの顔に手を添えて目尻の辺りを撫でている所だった。少し離れていても、恵の顔が緩んでいることくらいは分かった。何を話しているのかまでは分からないが、ナマエの表情もどことなく頬を染めているように見えなくもない。実際は泣きそうになっているせいで顔が赤いだけなのだが。そもそも、二人の距離が近い。近すぎる。このままキスでもしてしまいそうな距離感だ。
「(虎杖、アンタ知ってた?……って、なんでアンタが顔真っ赤にしてんのよ!)」
「(いやー…ハハハハ…。)」
虎杖は二日前の朝に隣の部屋から聞こえてきた一件(盗聴とも言う。)があるので、今の状況はある意味初見ではないはずだが…その時の事を思い出しているのか、それとも想像しているのか。そんな虎杖の様子が、釘崎には全く意味が分からなかった。
「(あ!なんか車来た!)」
隠れて見ている内に、迎えの車が来たようだ。補助監督らしき男性が車から降りてきた。二人と親し気に話しているので普段から世話になっているだろうことが伺えた。
「なぁ、そろそろ行こうぜ?迎えっぽいのも来たしさぁ。」
「(しっ!うるさい!もう少し。まだ時間はあるわ。)」
「(えー…。ってかなんで俺らコソコソしてんの。)」
釘崎が見ていたのは、ナマエの様子だった。補助監督とも談笑している。釘崎は、確定だな、と思ってしまった。男とばかり仲良くするナマエ、というイメージがどんどん固まっていってしまう。男勝りな性格のはずの釘崎だが、ナマエの態度にそこそこ傷ついてしまってたらしい。だから、偏見、というフィルターが掛かってしまった。そして厄介なのは、このフィルターは中々外れないのだ。
さすがに時間が近付いて来たのと、隣の虎杖が煩い。二人はのぞき見をやめて談笑をしている三人の元へと向かった。
「おーっす!おはよう!」
「おはよう。」
元気よく登場した虎杖と、どこか固い表情の釘崎。声に反応して振り向いたナマエはその笑顔がピシッとひきつった。恵はまたか…と思ったし、釘崎もやっぱり、と思った。
「お、おはよう。虎杖くん…釘崎さん。」
「……。」
ナマエなりの精一杯の笑顔は、もちろん談笑していた時とは大違いで。恵は前途多難だ…と思った。
「なぁなぁ、この人誰?」
と、何も気にすることなく発言する虎杖に、三人は内心ため息を吐いた。そして、一番訳が分かっていないのは、これからそんな四人を任務先に連れて行かないといけない、伊地知である。