第三十四話 齟齬
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——翌朝、校門前。
先に待機していたのは恵とナマエ。虎杖は恵が部屋を出るときに声を掛けたら慌てて準備を始めたらしいのでもう少しかかりそうだ。釘崎には…ナマエは特に声を掛けたりはしていないが、待ち合わせ時間にはまだあるのでおそらくそれまでには来るだろう。
「昨日、大丈夫だったか?」
「うん?何が?」
「案内。うまくできたかって。部屋にも来ねぇし。…朝も来ねぇし。」
「ちゃんとできたよ。あの後眠くなっちゃって…朝も、寝坊したの。」
「嘘だな。」
「へ?」
ナマエの耳にサイドの髪を掛けるようにしてから顔を覗き込む。そのまま親指で目尻を撫でながら言った。
「隈。目もちょっと赤い。」
「これ…は。」
「なんかあっただろ。」
「……なんもない。」
「言え。」
「なんもないってば。」
「言わねぇとここでキスすんぞ。」
「はぁ?」
なかなか言おうとしないナマエに、恵はそのまま首後ろに手を回して引き寄せようとしたが、ナマエがググっと恵の体を押し返した。
「言う!言うから!」
「よし。」
「もう…最近横暴だよ…。ここ外じゃん。」
「それで?」
「………。」
「おい。」
「………嫌いって言われた。」
「は?面と向かって?」
「うん。」
「寮の案内しててどうしてそうなるんだ。」
ナマエは昨日の部屋の前でのやり取りを掻い摘んで恵に話した。一通り聞いた恵からは「そういうことか」とため息交じりの少しだけ安堵したような声が出た。
「中学の時にウザイとかシネとかは何回も言われたことあるけど、直接嫌いって言われたのは初めてだよ。」
「いやお前。どっちかっつーと中学の方がパワーワードだろ。」
中学の頃にさんざん暴言を吐かれていたせいでナマエの感覚はおかしくなっているのか。なぜか『嫌い』の方に傷ついている。それにしても…。
「釘崎の言う『嫌い』はナマエ自身に対してじゃねぇだろ。普通に話せって言われたんだろ?それが緊張してうまくできなかったんだな。」
「…うん。」
「じゃあ、普段通り話しかければ解決じゃねぇか。」
「嫌いって言われた次の日にいきなり馴れ馴れしく話せると思う!?」
それもそうか、と恵は思った。と、同時に女ってめんどくせぇ、とも。涙目で訴えかけてくるナマエには言えたもんじゃないが。
「おい、泣くな。」
「泣いてない。」
「あいつら来るまでに泣き止めよ。」
「だから泣いてないってば!」
「あーはいはい。分かったから。」
ぶっきらぼうに言いながらもナマエの目元を親指で拭ってやりながらどうしたもんかと思っていると、恵たちに黒塗りの車が近付いてきて、すぐ近くで止まった。すっかり見慣れた高専の車。伊地知が到着したようだ。
「おはようございます。二人ともお早いですね…おや?ミョウジさんどうしました?」
「おはようございます伊地知さん。」
「グスッ…おはようございます、なんでもないです…。」
「「………。」」
鼻声の挨拶は全く説得力がないが、伊地知が恵の方を見ると少し困ったように首を横に振るので、触れないようにしようと伊地知は話を逸らした。
「今日は新しく増えた一年生お二人も一緒ですよね?ミョウジさん、良かったですね。同性の仲間が増えて。呪術界はどうしても男性の割合が多いですから。女性が増えると安心でしょう。」
「〰〰っ。ううっ!」
「伊地知さん…。」
「え?何か私変なこと言いました?」
「いや…そうじゃないんすけど…。」
なぜか余計にナマエが沈んでしまったので伊地知はアワアワとしていたが。どうにかナマエをなだめようとする伊地知に、ナマエもだんだんおかしくなってきて。
「…ふふっ。ふふふふふふ…。」
「え?ミョウジさん?」
「伊地知さん、慌てすぎ。」
気づけばナマエの涙もどこかへ行ってしまい、表情にも笑顔が戻った。伊地知はわけが分からなかったが、ナマエが元気になったのでよかったと、肩をなでおろした。その後は最近の伊地知の五条に対する愚痴を聞きながら、約束の時間がくるまで和やかな時が流れた。