第二話 初陣
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「ハァッ……ハァッ……何コレ。こんなの、、、キリがない…!」
「…くそっ…!」
恵の額からはドクドクと血が流れているし、ナマエの足もタイツは破れ生身の足やら腕は傷だらけ血だらけ。両者とも息を切らし、満身創痍だ。
_____
二人の目の前に現れたのは全長およそ2メートルの獣のような姿の呪霊だった。ただし、獣には似つかわしくない、夥しいほどの数の目を持ち合わせていたが。禍々しい姿ではあるが、伊地知の言った通り恐らく三級程度の低級呪霊であろうことが見て取れた。
「恵、玉犬で両手押さえられる?そこを私が切るから。」
「……分かった。」
(何で蜘蛛見てビビんのに呪霊 見て何ともないんだよ。)
こっちの方がよっぽど気持ち悪ぃってのに。そう思いながらも、ナマエの案がこの狭い廊下では最適で、この程度の呪霊であればナマエでも問題ないだろうと判断した恵は、玉犬二匹に指示を出した。
「かかれ!」
恵の命令に二匹の玉犬は一斉に呪霊へと飛びかかった。それに合わせてナマエも駆け出す。走りながら鉄扇を構え目一杯に呪力を込めたナマエは、鉄扇を閉じたまま思いっきり振りかぶり呪霊の脳天から半分に切るようにそれを振り下ろした。
「ハァっ!!」
_____ザンッ!
ナマエの斬撃は見事に呪霊を真っ二つにした。
鉄扇に着いた血を振り落としたナマエは、ふうっと一息つき、半分に分かれた呪霊だったものを見下ろした。
「……ごめんね。」
呪霊に向けてポツリと一言告げたナマエだったが、ふと違和感を覚えた。なぜなら呪霊がいつまで経っても消えないから。祓い終わったナマエを労おうと玉犬を解き近寄りながら声を掛けようとした恵だったが。
「っ!ナマエ!!」
「え?……ぐっ!」
_____ガシャン!
祓ったはずの呪霊が起き上がり、こちらを振り向きかけたナマエを窓の外に吹き飛ばした。
「っ。ウソだろおい。」
恵は自分の目を疑った。確かにナマエが真っ二つにしたはず。それなのにその呪霊は何もなかったように体は元通りに形成され、またその異形の姿に戻った。……そう、文字通り真っ二つに。分裂したのだ。
(こんな狭い廊下じゃ鵺は出せねぇ。玉犬で押さえるしか……)
すぐに影絵を作ろうと両手を重ねた恵だったが、一足遅かった。
_____ゲギャギャギャギャ!
「!……ぐあっ!」
_____バリンッ!
玉犬を出す前に二つに分かれた呪霊に同時に飛びかかられて、恵も同じように窓の外に放り出された。
ゴロゴロと土の上を転がった恵はすぐに起き上がり、同じく吹き飛ばされたナマエの姿を探した。地面に倒れているナマエを見つけた恵は、動かないその姿を見て血の気が引いた。
「ナマエ!!」
「うぅ…。いっっったぁーーー……」
そう言って地面に蹲った状態のナマエは鉄扇で体を支えながらゆっくりと体を起こした。腕やら足やらガラスで切られたのか血まみれになっているが、命に別状は無さそうだ。怪我をしたには違いないがひとまず安堵の息を吐いた恵と目が合ったナマエは、驚愕の表情で叫んだ。
「恵!血!!頭から血が出てる!」
発狂したような形相で捲し立てるナマエを見て恵は逆に冷静になることができた。
「……お前の方が血だらけだろ。」
「え?……うわっ!」
言われて初めて気づいたのか、ナマエは自身の状態を見て驚いていた。
「もー…制服おろしたてなのに……!」
「怒ることそこかよ。それより気を抜くな。あの呪霊、分裂しやがった。まだ来るぞ!」
_____ゲギャ、ゲギャギャギャギャ……
恵が言うや否や、その異形は下卑た笑みで…と言っても表情は分からないので笑っているような気がしただけだが、窓から乗り出しゆっくりとこちらに向かってきた。
「来た……。ナマエ、下手に攻撃すんなよ。多分まだ分裂すると思う。」
「攻撃しなきゃ祓えないじゃん!どうするの?」
「……。」
攻略法が分からないまま呪霊は攻撃を仕掛けてきて、その都度避けていた二人だったが、やむ終えず反撃する形となり、そうなると呪霊は分裂をする。それを繰り返す内、呪霊の数は二十に登ろうとしていた。
「キリがないよ!こんなの!どうしろって言うの!?三級とか嘘でしょ!」
「……。」
(……どうすりゃいい。)
こちらの攻撃が当たる度に分裂を繰り返す呪霊。終わりが見えない。ただし、分裂をする度にそのサイズは小さくなっている。打撃力も明らかに落ちている。このまま弱らせ続ければ、或いは……。だが、二人とも息は上がり今にも体力は尽きそうだ。ナマエも肩で息をしており、限界が近いだろう。
帳の外に救援に行きたい所だが、生憎呪霊に囲まれており身動きが取れない。
呪霊はと言うと、ジワジワと嬲り殺すつもりなのか、今は自分たちを囲んで奇声を発しながら嬉しそうにその場で飛び跳ねているため襲って来ない。
「あーー!もう!無理!」
解決策を見つける前に、ナマエの限界が来たらしい。マズイ、どうするかと焦る恵に対してナマエは恵に考えがある、と言い出した。
「考えって何だ。」
「恵さ、玉犬と鵺って同時に出せる?」
「出せるが……どうするつもりだ。」
「良かった!じゃあその三匹でどうにかしてあの呪霊を一箇所に集めて欲しいの。」
「……。」
「そしたら私が鉄扇でまとめて吹き飛ばすから!」
そうか、ナマエの術式ならそれも可能かも知れない。だが……
「それで数が倍になったらどうすんだ。」
「再生できないくらい粉々にしちゃえばいいんじゃない?多分。」
「多分かよ。」
「もう!じゃあ他に方法ある!?」
「……分かったよ。」
恵の返事にホッとしたナマエは、鉄扇を大きく広げて構えた。
「全力で呪力込めるから、その後はよろしく!」
「チッ。」
ナマエに負担を掛けることを良しとしない恵にとって、苦渋の選択だった。だが恵自身、他に方法が見つからなかったので仕方なくナマエのやり方に従うしかなかった。舌打ちをしながら恵は両手を構える。
「……鵺。」
_____キェェェェェェ!
既に出していた玉犬二匹の頭を両手でそれぞれ撫でた後、指示を出した。
「行け!」
空から鵺が、地上では玉犬が襲いかかる。敢えて避けさせるように襲いかかる式神たちは、まるで羊飼いのごとく呪霊たちを追い詰める。
(……そろそろか。)
呪霊たちが建物の一角に集中し出した時、恵は目一杯叫んだ。
「ナマエ!!今だ!」
目を瞑り集中していたナマエがその瞼をゆっくりと開き、呪力を最大限に込めた鉄扇を大きく振りかぶった。
「___鎌鼬!!」
_____ガガガガガガガガガ!!!
ナマエが込めた呪力は鉄扇を通して風となり、突風を起こした。その名のごとく、鎌鼬のように鋭く尖った風は無数の刃となって呪霊に襲いかかる。その刃は地面ごと根こそぎ抉るように呪霊を細切れにしてしまった。
__後ろの建物を一棟丸々吹き飛ばすほどのその威力は、呪霊に断末魔さえ言わせることがなかった。
(おいおい…やり過ぎだろ。)
台風が過ぎ去ったかのような光景を見ながらも、その威力に唖然とした恵の後ろでドサリと物音がした。振り返ると力尽きて倒れ込むナマエの姿があった。
「っ!ナマエ!」
急いで駆け寄りその半身を抱き抱えると、大きく息をしながらうっすら瞼を開けたナマエと目が合った。
「ハァっ、ハァっ……たお……した?」
「あぁ、綺麗さっぱり居なくなった。ったく、無茶し過ぎだ。建物まで吹き飛ばしてどうすんだ。」
「へへ……よか……ったぁ……。」
そのままクタリと動かなくなったナマエに恵は慌てて声を掛ける。
「おい!ナマエ!起きろ!おい!」
ペチペチと頬を叩いても微動だにしないナマエに焦った恵は、口元に耳を当てると、すーすーと穏やかな寝息が聞こえてきて、ホッと胸を撫で下ろした。
(焦らせんじゃねぇよ……。でも……。)
「お疲れ。……ありがとな。」
慈しむようにナマエの頭を撫でながら、恵は思った。ナマエがいなければヤバかった、と。自分はただ呪霊を追いかけ回しただけ。そう思うと自身の不甲斐なさに胸糞悪くなるが、まずはお互いの無事を喜ぼう。恵が大きく息を吐いた所で、帳が上がり、本来の青空が顔を出した。呪霊の気配が消えた事で伊地知が帳を解いたんだろう。
そのまますぐに動く気にもなれず、ナマエを抱き抱えたままその場で座っていると、後ろから何とも呑気な声が聞こえてきた。
「お疲れサマンサー!やぁやぁ、無事祓えたみたいだねー!……って、ナマエ!?」
恵の腕の中でピクリともしないナマエを見た五条は、その呑気な顔を引っ込めて慌てて恵たちの元へと駆け寄った。
「……死んだ?」
「生きてます。勝手に殺さないでください。」
「良かったー!ナマエが死んだら兄貴に僕が殺されちゃうからねー!」
(アンタを殺せる奴なんてこの世にいねぇよ。)
ケラケラと笑いながらあり得ない事を言う五条にイラつきながら、ナマエを抱き起こし、そのまま横抱きにして立ち上がった。
「ナマエも俺も治療してもらわないと。」
「そーだね!とりあえず、良くやったよ!」
「俺じゃなく、ナマエに言ってやってください。祓ったのはナマエです。」
「あー、それで建物まで吹っ飛んでんだね。これまた派手にやったもんだ。それでナマエは呪力すっからかんなの?」
「全部出し切ったみたいです。それに…、あの呪霊。三級どころか、恐らく二級は下らなかった。」
「まじ?それを撃破とは、今年の一年は将来有望だね!」
「そんなことより、早く帰りましょう。」
祓ったのはナマエとは言え、恵自身も限界が近かった。何せ出血は多いし、式神を三つ同時に出して動かし続けたのだ。恵だってもう呪力が底をつきそうだった。
「分かったよ。ほれ、ナマエ貸して。恵も疲れたでしょ。僕が運んであげるよ。」
「…………。」
ん、と言って両手を広げる五条に、何も言わず見つめ返す恵。
「あれ?どうしたの?ほら、恵だって満身創痍でしょ。遠慮しなくていいよ。」
「……大丈夫です。車まですぐなんで。」
「………………。」
しばらく無言で恵を見つめた五条は、これでもかと口を釣り上げ、ニヤニヤとしだした。アイマスクをしていても楽しげな瞳が想像できるほどに。
「へぇーー。ほぉーー。」
「…何ですか。」
「いやー?べっつにぃーー?」
揶揄われる事必至と思った恵は、そのまま五条を無視してフラフラしながらも伊地知の待つ車の方へと向かった。
「あ、そうそう。言い忘れてた。」
思い出したように話す五条の方を振り返った恵に、五条は続けた。
「君たち、今日から二級術師だから!」
「……はぁ!?」
「…くそっ…!」
恵の額からはドクドクと血が流れているし、ナマエの足もタイツは破れ生身の足やら腕は傷だらけ血だらけ。両者とも息を切らし、満身創痍だ。
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二人の目の前に現れたのは全長およそ2メートルの獣のような姿の呪霊だった。ただし、獣には似つかわしくない、夥しいほどの数の目を持ち合わせていたが。禍々しい姿ではあるが、伊地知の言った通り恐らく三級程度の低級呪霊であろうことが見て取れた。
「恵、玉犬で両手押さえられる?そこを私が切るから。」
「……分かった。」
(何で蜘蛛見てビビんのに
こっちの方がよっぽど気持ち悪ぃってのに。そう思いながらも、ナマエの案がこの狭い廊下では最適で、この程度の呪霊であればナマエでも問題ないだろうと判断した恵は、玉犬二匹に指示を出した。
「かかれ!」
恵の命令に二匹の玉犬は一斉に呪霊へと飛びかかった。それに合わせてナマエも駆け出す。走りながら鉄扇を構え目一杯に呪力を込めたナマエは、鉄扇を閉じたまま思いっきり振りかぶり呪霊の脳天から半分に切るようにそれを振り下ろした。
「ハァっ!!」
_____ザンッ!
ナマエの斬撃は見事に呪霊を真っ二つにした。
鉄扇に着いた血を振り落としたナマエは、ふうっと一息つき、半分に分かれた呪霊だったものを見下ろした。
「……ごめんね。」
呪霊に向けてポツリと一言告げたナマエだったが、ふと違和感を覚えた。なぜなら呪霊がいつまで経っても消えないから。祓い終わったナマエを労おうと玉犬を解き近寄りながら声を掛けようとした恵だったが。
「っ!ナマエ!!」
「え?……ぐっ!」
_____ガシャン!
祓ったはずの呪霊が起き上がり、こちらを振り向きかけたナマエを窓の外に吹き飛ばした。
「っ。ウソだろおい。」
恵は自分の目を疑った。確かにナマエが真っ二つにしたはず。それなのにその呪霊は何もなかったように体は元通りに形成され、またその異形の姿に戻った。……そう、文字通り真っ二つに。分裂したのだ。
(こんな狭い廊下じゃ鵺は出せねぇ。玉犬で押さえるしか……)
すぐに影絵を作ろうと両手を重ねた恵だったが、一足遅かった。
_____ゲギャギャギャギャ!
「!……ぐあっ!」
_____バリンッ!
玉犬を出す前に二つに分かれた呪霊に同時に飛びかかられて、恵も同じように窓の外に放り出された。
ゴロゴロと土の上を転がった恵はすぐに起き上がり、同じく吹き飛ばされたナマエの姿を探した。地面に倒れているナマエを見つけた恵は、動かないその姿を見て血の気が引いた。
「ナマエ!!」
「うぅ…。いっっったぁーーー……」
そう言って地面に蹲った状態のナマエは鉄扇で体を支えながらゆっくりと体を起こした。腕やら足やらガラスで切られたのか血まみれになっているが、命に別状は無さそうだ。怪我をしたには違いないがひとまず安堵の息を吐いた恵と目が合ったナマエは、驚愕の表情で叫んだ。
「恵!血!!頭から血が出てる!」
発狂したような形相で捲し立てるナマエを見て恵は逆に冷静になることができた。
「……お前の方が血だらけだろ。」
「え?……うわっ!」
言われて初めて気づいたのか、ナマエは自身の状態を見て驚いていた。
「もー…制服おろしたてなのに……!」
「怒ることそこかよ。それより気を抜くな。あの呪霊、分裂しやがった。まだ来るぞ!」
_____ゲギャ、ゲギャギャギャギャ……
恵が言うや否や、その異形は下卑た笑みで…と言っても表情は分からないので笑っているような気がしただけだが、窓から乗り出しゆっくりとこちらに向かってきた。
「来た……。ナマエ、下手に攻撃すんなよ。多分まだ分裂すると思う。」
「攻撃しなきゃ祓えないじゃん!どうするの?」
「……。」
攻略法が分からないまま呪霊は攻撃を仕掛けてきて、その都度避けていた二人だったが、やむ終えず反撃する形となり、そうなると呪霊は分裂をする。それを繰り返す内、呪霊の数は二十に登ろうとしていた。
「キリがないよ!こんなの!どうしろって言うの!?三級とか嘘でしょ!」
「……。」
(……どうすりゃいい。)
こちらの攻撃が当たる度に分裂を繰り返す呪霊。終わりが見えない。ただし、分裂をする度にそのサイズは小さくなっている。打撃力も明らかに落ちている。このまま弱らせ続ければ、或いは……。だが、二人とも息は上がり今にも体力は尽きそうだ。ナマエも肩で息をしており、限界が近いだろう。
帳の外に救援に行きたい所だが、生憎呪霊に囲まれており身動きが取れない。
呪霊はと言うと、ジワジワと嬲り殺すつもりなのか、今は自分たちを囲んで奇声を発しながら嬉しそうにその場で飛び跳ねているため襲って来ない。
「あーー!もう!無理!」
解決策を見つける前に、ナマエの限界が来たらしい。マズイ、どうするかと焦る恵に対してナマエは恵に考えがある、と言い出した。
「考えって何だ。」
「恵さ、玉犬と鵺って同時に出せる?」
「出せるが……どうするつもりだ。」
「良かった!じゃあその三匹でどうにかしてあの呪霊を一箇所に集めて欲しいの。」
「……。」
「そしたら私が鉄扇でまとめて吹き飛ばすから!」
そうか、ナマエの術式ならそれも可能かも知れない。だが……
「それで数が倍になったらどうすんだ。」
「再生できないくらい粉々にしちゃえばいいんじゃない?多分。」
「多分かよ。」
「もう!じゃあ他に方法ある!?」
「……分かったよ。」
恵の返事にホッとしたナマエは、鉄扇を大きく広げて構えた。
「全力で呪力込めるから、その後はよろしく!」
「チッ。」
ナマエに負担を掛けることを良しとしない恵にとって、苦渋の選択だった。だが恵自身、他に方法が見つからなかったので仕方なくナマエのやり方に従うしかなかった。舌打ちをしながら恵は両手を構える。
「……鵺。」
_____キェェェェェェ!
既に出していた玉犬二匹の頭を両手でそれぞれ撫でた後、指示を出した。
「行け!」
空から鵺が、地上では玉犬が襲いかかる。敢えて避けさせるように襲いかかる式神たちは、まるで羊飼いのごとく呪霊たちを追い詰める。
(……そろそろか。)
呪霊たちが建物の一角に集中し出した時、恵は目一杯叫んだ。
「ナマエ!!今だ!」
目を瞑り集中していたナマエがその瞼をゆっくりと開き、呪力を最大限に込めた鉄扇を大きく振りかぶった。
「___鎌鼬!!」
_____ガガガガガガガガガ!!!
ナマエが込めた呪力は鉄扇を通して風となり、突風を起こした。その名のごとく、鎌鼬のように鋭く尖った風は無数の刃となって呪霊に襲いかかる。その刃は地面ごと根こそぎ抉るように呪霊を細切れにしてしまった。
__後ろの建物を一棟丸々吹き飛ばすほどのその威力は、呪霊に断末魔さえ言わせることがなかった。
(おいおい…やり過ぎだろ。)
台風が過ぎ去ったかのような光景を見ながらも、その威力に唖然とした恵の後ろでドサリと物音がした。振り返ると力尽きて倒れ込むナマエの姿があった。
「っ!ナマエ!」
急いで駆け寄りその半身を抱き抱えると、大きく息をしながらうっすら瞼を開けたナマエと目が合った。
「ハァっ、ハァっ……たお……した?」
「あぁ、綺麗さっぱり居なくなった。ったく、無茶し過ぎだ。建物まで吹き飛ばしてどうすんだ。」
「へへ……よか……ったぁ……。」
そのままクタリと動かなくなったナマエに恵は慌てて声を掛ける。
「おい!ナマエ!起きろ!おい!」
ペチペチと頬を叩いても微動だにしないナマエに焦った恵は、口元に耳を当てると、すーすーと穏やかな寝息が聞こえてきて、ホッと胸を撫で下ろした。
(焦らせんじゃねぇよ……。でも……。)
「お疲れ。……ありがとな。」
慈しむようにナマエの頭を撫でながら、恵は思った。ナマエがいなければヤバかった、と。自分はただ呪霊を追いかけ回しただけ。そう思うと自身の不甲斐なさに胸糞悪くなるが、まずはお互いの無事を喜ぼう。恵が大きく息を吐いた所で、帳が上がり、本来の青空が顔を出した。呪霊の気配が消えた事で伊地知が帳を解いたんだろう。
そのまますぐに動く気にもなれず、ナマエを抱き抱えたままその場で座っていると、後ろから何とも呑気な声が聞こえてきた。
「お疲れサマンサー!やぁやぁ、無事祓えたみたいだねー!……って、ナマエ!?」
恵の腕の中でピクリともしないナマエを見た五条は、その呑気な顔を引っ込めて慌てて恵たちの元へと駆け寄った。
「……死んだ?」
「生きてます。勝手に殺さないでください。」
「良かったー!ナマエが死んだら兄貴に僕が殺されちゃうからねー!」
(アンタを殺せる奴なんてこの世にいねぇよ。)
ケラケラと笑いながらあり得ない事を言う五条にイラつきながら、ナマエを抱き起こし、そのまま横抱きにして立ち上がった。
「ナマエも俺も治療してもらわないと。」
「そーだね!とりあえず、良くやったよ!」
「俺じゃなく、ナマエに言ってやってください。祓ったのはナマエです。」
「あー、それで建物まで吹っ飛んでんだね。これまた派手にやったもんだ。それでナマエは呪力すっからかんなの?」
「全部出し切ったみたいです。それに…、あの呪霊。三級どころか、恐らく二級は下らなかった。」
「まじ?それを撃破とは、今年の一年は将来有望だね!」
「そんなことより、早く帰りましょう。」
祓ったのはナマエとは言え、恵自身も限界が近かった。何せ出血は多いし、式神を三つ同時に出して動かし続けたのだ。恵だってもう呪力が底をつきそうだった。
「分かったよ。ほれ、ナマエ貸して。恵も疲れたでしょ。僕が運んであげるよ。」
「…………。」
ん、と言って両手を広げる五条に、何も言わず見つめ返す恵。
「あれ?どうしたの?ほら、恵だって満身創痍でしょ。遠慮しなくていいよ。」
「……大丈夫です。車まですぐなんで。」
「………………。」
しばらく無言で恵を見つめた五条は、これでもかと口を釣り上げ、ニヤニヤとしだした。アイマスクをしていても楽しげな瞳が想像できるほどに。
「へぇーー。ほぉーー。」
「…何ですか。」
「いやー?べっつにぃーー?」
揶揄われる事必至と思った恵は、そのまま五条を無視してフラフラしながらも伊地知の待つ車の方へと向かった。
「あ、そうそう。言い忘れてた。」
思い出したように話す五条の方を振り返った恵に、五条は続けた。
「君たち、今日から二級術師だから!」
「……はぁ!?」